第5話 アフリカ(前編)

 南下して数十分、海が見えてきた。海の向こうはアフリカ大陸。ピラミッドのある所だ。この海は戦争で汚染され、今も泳げない状態だという。いつになったら泳げるようになるんだろう。世界を救って海が元に戻ったら泳ぎたいな。


 ローズは海で泳いだ事がなかった。どの海も、泳げない程汚染されている。いや、ローズだけではない。今生きている人々のほとんどは海で泳いだ事がない。


「あの向こうか」


 ローズはホバーライダーを降り、海をじっと見つめた。あの海の向こうで銀龍王は待っている。必ず世界を救って故郷に帰ってくる。


「あの海の向こうに銀龍王はいる!」


 ローズは海の向こうのピラミッドを思い浮かべた。きっとこの先に銀龍王はいる。俺が来るのを待っているはずだ。そして、世界を救うために戦ってくれるはずだ。


 ローズはホバーライダーに乗り、海を越えた。ローズは上から海を見た。海はとても濁っている。美しかった頃はどんな色だったんだろう。その時に戻れたら美しい海の色を見てみたいな。




 1時間ぐらい飛んで、ローズはエジプトだった所に着いた。そこは昔から砂漠の中にある街で、多くの考古学者がそこにあるピラミッドに注目していた。だが、そのピラミッドに銀龍王にまつわる物がある事は彼らでもわからなかったという。


 ローズは降り立った。街は廃墟となっていた。誰も住んでいないようだ。とても静かだ。時々強風が吹き、砂嵐が起こる。降り立つと、砂嵐が起こった。ローズは目を細めた。


「ここがエジプトだった所か」


 エジプトはピラミッドで有名な国で、古代文明で栄えていたという。その象徴のようなものがピラミッドで、多くの考古学者が注目していた。だが、その謎を完全に解けないまま、戦争によって放置された。今では誰も調べようとしない。考古学なんて、誰も興味がなくなった。今を生きる事しか考えないようだ。


「どれぐらいの人が住んでいたんだろうか?」


 ローズは想像した。こんな所だけど、結構多くの人が住んでいたに違いない。だが、想像がつかない。エジプトの歴史を調べたことがない。


「どうしたんだい?」


 ローズが振り向くと、そこには人がいる。その男は色黒で、ボロボロの服を着ている。ここに昔から住んでいるようだ。まだここに住んでいる人がいるんだ。ローズは驚いた。


「この近くのピラミッドに秘宝があるんです」

「何と!? ピラミッドにはまだ秘宝があるとは」


 男は驚いた。まだまだピラミッドに秘宝があるとは。かつて、多くの考古学者が調べたが、まだまだ秘宝があるとは。秘宝を探しに来る人が来るのは何年ぶりだろう。戦前はよくいたのに。


「この世界の守り神と言われている、銀龍王が眠っているオーブらしいです」


 男は首をかしげた。銀龍王の事は全く知らない。そんなの歴史で習った事もないし、誰かかが教わった事もない。一体何だろう。


「そんなものがあるのか?」

「あるそうです。そして、今、その力が必要だそうです」


 ローズは真剣な表情だ。男はいつの間にか、その話を食い入るように聞いていた。


「どうしてだ?」

「宇宙から恐ろしい奴らがやって来たからです。彼らを倒せるのは、銀龍王だけです」


 男は驚いた。宇宙からこんな恐ろしい奴らがやってきたとは。見つからないように、気を付けないと。見つかったら、何をされるかわからない。


「そうなんだ」


 男は考えた。これは世界の命運をかけた出来事かもしれない。自分は世界を救うかもしれない男に会っている。


「もし、世界を救ったら、また会いたいな」

「会いたいね」


 男は抱き合った。今度会うときは、世界を救った後だ。その時には、生きていてほしい。そして、世界が救われた喜びを共に分かち合おう。


 ローズは足早にホバーライダーに乗り、ピラミッドを目指した。必ず世界を救って彼らに会うことを夢見て。




 その頃、宇宙戦艦はヨーロッパだった所を見渡す丘で停泊していた。いくら頑張ってもローズを探す事ができない。彼らは躊躇していた。何としてもローズを捕まえて、銀龍王を目覚めさせないようにしなければ。


 檻の中で、捕らわれた人々は泣いていた。このまま世界の終わりを見るんじゃないか? こんな檻の中で人生を終わるなんて御免だ。何が何でも逃げたい。


「ローズ、何もできなくてごめん」


 ローズの友達、セバスチャンは泣いていた。自分はローズに何もする事ができなかった。なんて自分は不幸者だろう。せっかく世界を救おうとしているのに。頑張らなければ。


「何言ってんだ。まだ終わってないぞ」

「あんなに頑張ってるのに、何にもできなくて」


 と、ある男が見張りの様子を見ていた。見張りは寝ている。誰も逃げようとしないので油断しているんだろうか? 机に座ったままいびきをかいて寝ている。


「あいつ、寝てるな」


 それを見て、男は針金を取りだした。その針金はローズが脱出する時に使った物だ。男はまだそれを持っていた。


「これを使え」

「ありがとう」


 セバスチャンは男から針金をもらい、鍵をいじった。物音がするが、見張りは起きない。すっかり夢の中のようだ。


 しばらくすると、鍵が開いた。セバスチャンは音をあまり立てないように、ゆっくりと牢屋の扉を開けた。


「よし、行こう!」


 セバスチャンは小声で牢屋の人々に話した。見張りの近くには剣がある。これで見張りを殺して、みんなで逃げよう。この近くにはホバーライダーがるはずだ。これを使って遠くまで逃げよう。


 セバスチャンは剣を手に取ると、素早く見張りの首を斬り落とした。見張りは何かに気付き、目を覚ました。だが、気づいた時にはもう首が斬り落とされていた。抵抗することができないまま、見張りは命を落とした。


 牢屋の人たちは全て脱出した。だが、誰も気づかない。彼らは通路を進み、ホバーライダーのある場所に向かった。


「こっちだ!」


 セバスチャンは小声で彼らを誘導した。彼らはその指示に従い、通路を静かに進んだ。彼らに見つからないように。


 通路の奥にある物置の扉を開けた。そこには、ホバーライダーがある。おそらく押収したものと思われる。これで逃げることができる。何としても逃げ回ってローズを追いかける矛先をそらさねば。


 セバスチャンと彼らは素早く飛び乗り、ホバーライダーのエンジンをかけた。すぐに出ないと奴らに捕まってしまう。彼らは急いで宇宙戦艦から逃げた。


 だが、その音で彼らが気付き、物置にやって来た。やって来た時にはもう彼らが宇宙戦艦から逃げだした後で、物置はもぬけの殻になっていた。


「くそっ、奴らを追え!」


 アルスの命令で、宇宙戦艦は緊急発進した。それに気づき、彼らは必死に逃げた。だが、宇宙戦艦はビームを発射し、次々と逃げた人間を殺していった。夜に逃げることができたローズと違って、獲物がよく見える時に逃げたからだ。


 彼らはあっという間に全滅した。それを見て、アルスは満足げな表情を見せた。彼らが殺されることこそ、我が喜びだと思っていた。


「未熟者め! 簡単に逃げられると思うなよ!」


 宇宙戦艦は元の場所に戻った。何事もなかったかのように。




 ピラミッドに向かっている間、ローズは今までに会った人々の事を思い出した。どの人も生活に苦しんでいるようだ。いつになったら彼らが元の生活に戻れるんだろう。元の平和な生活に戻った日に生まれることができたら、どんなに幸せだろう。もしできる事なら、その時代に生まれたいな。


 エジプトのカイロだった所を後にして1時間ほど、ピラミッドが見えてきた。ピラミッドは建てられた時と変わりなくここにたたずんでいた。このピラミッドは古代エジプトの国王の墓として建てられたものだが、まだまだわからないことだらけで、完全に解明することはできなかったという。きっとその中に銀龍王に関する事もあったに違いない。


 ピラミッドの周辺はとても静かだ。昔はどれだけの人が行き交ったんだろう。そして、どれだけの人によって造られたんだろう。


「ついに来たか」


 10分飛んで、ローズはピラミッドの辺りに着いた。ピラミッドの周辺は砂嵐が吹き荒れている。ローズは目を細め、ため息をついた。あいつらが来るまでに早く銀龍王のもとに行かなければ。


 ローズはその中で最も古いピラミッドに向かった。そのピラミッドは周りのピラミッドに比べてひときわ大きい。だが、その下に銀龍王がいるというのは誰も知らなかったという。その地下に銀龍王がいる。ローズはわくわくしてきた。


 ローズはそのピラミッドに降り立った。ピラミッドは静かにたたずんでいる。もう何千年も前からここにあると思われる。


 ローズは周りを見渡し、中に入る入口を探した。だが、なかなか見つからない。ピラミッドの事は全く知らない。だが、見つけなければならない。世界の命運は自分手にかかっているんだ。これまで出会った人々のためにも、世界に希望を与えなければならない。


 10分後、ようやくローズは入口を見つけた。もう何千年も使われていないようだ。それは砂の中に隠れていて、なかなか見つける事ができなかった。


 ローズは入口の前に立った。その上には、ペンダントと同じ模様が描かれている。誰1人として、その模様の意味が分からなかった。だが、ローズにはわかった。その先にはきっと銀龍王はいる。銀龍王はローズが来るのを待っているに違いない。


「この地下か」


 ローズはペンダントをかざした。すると、ペンダントから光が発せられ、扉が開いた。何万年も開かなかった銀龍王への扉が開かれた。ローズは笑みを浮かべた。もうすぐ銀龍王に会える。そして、世界が救われる。


「何年入ってないんだろう」


 ローズはため息をついた。何万年も誰も入ってなかったにもかかわらず、通路はきれいだ。銀龍王の力だろうか? ローズは驚きつつ進んだ。


 通路は下り階段になっていて、どんどん下に降りていく。一体どこまで降りるんだろう。その先にも階段しか見えない。


 しばらく進むと、階段が途切れ、暗い通路が見えてきた。その先には何があるんだろう。ローズはたいまつに火をともしつつ、進んだ。


 ローズは階段を抜け、暗い通路を歩いていた。その通路の壁には、龍が描かれている。その龍は楽しそうな人々を空から見下ろしている。その龍こそ、銀龍王だろうか? 果たして、銀龍王とはどんな見た目だろう。この目で見たいな。


 進んでいくと、ローズは壁画に書かれた文字を見つけた。ローズは立ち止まり、壁画をよく見た。


「こ、これは?」


 その壁画には、こんな言葉が書いてあった。




 銀龍王の力を解き放つ時、銀龍王は解き放つ者とひとつになる。銀龍王、世界を闇に落とす獣人を封印す。その時、銀龍王は解き放った者と共に泡となる。そして、紋章にその力を封印す。その紋章、永遠に受け継がなくてはならない。再び世界を闇に落とさないためにも。




 自分が泡となる。という事は、自分が命を絶つことなのか? 自分は平和な世界が見たいのに。その平和を見ずに命を絶つというのか? そんなのできない。平和な世界で生きたい。


 ローズは困惑した。この世界を救うために旅をしてきたのに、平和のために命を絶つなんて。そんな事、どうしてしなければならないんだろう。ローズは肩を落とした。世界のために、自分が命を絶つなんて、急に言われてもできないし、死にたくない。もっと生きて、今までに会った人々と平和が戻った事を共に分かち合いたい。


 だが、ローズは考えた。きっと自分が将来、生まれ変わってこの世界に現れる頃には、きっと平和な世界が待っている。ここに生きる全ての人々のためなら、この世界に平和が戻るのなら、命を落としても構わない。


 そう考えると、ローズの考えは変わってきた。この世界に生きる人々のために、この世界の平和のために、自分が犠牲になろう。そして、生まれ変わる時には、平和な世界で暮らしたいな。

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