第3話 廃都

 翌朝、ローズは西へ向かった。その先には、ただっぴろい森が広がっていた。一体どこまで飛んだら人のいる場所に行けるんだろう。どこに人がいるんだろう。ローズは不安になった。


 昔はこの森のどこかに街があったんだろうなと思うとローズは寂しくなった。所々に見える蔦が絡まったビルがその名残だ。あの頃に生きてみたかったな。


「待てーっ!」


 誰かの声に気づき、ローズは後ろを振り向いた。するとそこには、デュランと兵士がいた。彼らは別のホバーライダーでやってきた。


「くそっ、つけてきた!」


 ローズはホバーライダーのスピードを上げた。しかし、デュラン達のホバーライダーの方が速い。


「逃がさんぞ!」


 デュランの部隊がどんどん近づいてきた。


「こうなったら!」


 ローズは下の森の中に逃げた。森の中に隠れてやり過ごそうと考えていた。


 ローズは森の中を走っていた。しかし、デュラン達も追ってやってきた。


「逃がさんぞ!」


 ローズは森の中を縦横無尽に走っていた。走り回って逃げようと思っていた。


「逃がすもんかー!」


 デュラン達は森の中に入り、ローズを追いかけていた。それを見て、ローズは森の中を縦横無尽に走っていた。


 ローズは必死で逃げた。ここで見つかったらまた宇宙船に戻される。こうなったらみんなが助からない。僕が世界を救うんだ。


 と、後ろからデュランがやって来た。絶対に逃がすもんか。捕まえてアルス隊長に褒めてもらうんだ。デュランは必死だ。




 10分間飛び回って、ローズは何とか逃げ切ることができた。しかし、とても疲れていた。ローズは息を切らしていた。


「くそっ、逃がしたか?」


 デュランは辺りを見渡した。しかし、ローズはいなかった。すでに遠くに逃げたと思われる。


「逃がした奴は絶対に殺せ! わかったな!」

「はい!」


 デュランはしばらくこの辺りを捜索するように指示した。


 その頃ローズは名古屋市だった所を走っていた。ここにも所々に高層ビルの廃墟が立ち並んでいる。名古屋の象徴だった名古屋城は水没し、跡形もない。


 ローズはここにこんな街があったことは知らなかった。どんな街だったんだろう。きっと賑やかで、活気があったんだろうな。その時に行ってみたかったな。


 ローズは周りを警戒していた。今さっきデュラン達が追いかけてきたからだ。また今度も見つけて追いかけてくるかもしれない。気を付けないと。


 ローズはその中でもひときわ高いビルで一休みすることにした。この辺りには名古屋駅があって、多くの乗客で賑わった。


 ローズはどんな賑わいだったんだろうと考えた。多くの人が乗り降りし、出会い別れがあって、色んな人との触れ合いがあったんだろうな。あの頃に生きたかった。


 ビルには多くの机が置かれていた。ここはオフィスだったと思われる。暗くて静かだ。もう何年も人が入ってないようだ。




 ローズは再び西に向かった。西にはまたもやただっぴろい荒野が広がっている。その中には、またビルの廃墟が立ち並んでいる箇所がある。そこには大阪という大都会があった。


 ローズは考えた。大阪はどんな街だったんだろう。賑やかだったんだろうか。どれだけの人が住んでいただろうか。あの頃に行きたかったな。


 栄えていた頃、日本はどんな街だったんだろう。もっと賑やかだったのか? 海は美しかったのか? ローズは想像して、その頃に行きたかったなと思った。


 ローズはこの先の森で一休みすることにした。昔からここには森があったのか、ここはかつて街だったのか。全く見当がつかなかった。


「よぉ、あんた誰だ?」


 突然、後ろから誰かが声をかけた。ひげを生やした老人だ。昔からここに住んでいるようだ。


「ローズです。北から来ました」


 ローズは丁寧にお辞儀をした。老人は笑顔を見せた。


「そうかい。まぁ、入れ」


 ローズは家に案内された。家といっても、まるで物置のような小さい家で、ローズの実家とは全然違っている。ローズは驚いた。


「こんな小さい所に住んでるんですか?」

「ああ。わしは半世紀近く一人ぼっちだったんですよ。君に会うまでは」


 老人は若くして家族を亡くした。汚染された海に落ちたからだ。それ以来老人は、結婚もせずにここに住んでいた。


「そうですか」


 ローズは老人の話に聞き入っていた。こんなにも孤独だったなんて、驚きだ。


「家族みんな死んじゃって。寂しかったんじゃ」


 老人は寂しそうな顔だった。この辺りには誰も住んでおらず、誰とも会うことがなく、長年過ごしてきた。


「今さっき、ビルの廃墟、見たんだよ」


 ローズは興奮した様子だ。ローズは廃墟を見るのが楽しみで、ホバーライダーを使って世界中を旅することもあった。


「そうかい。うちの先祖さんは、このビルがあった大阪に勤めていたんだよ。大阪はいい街だったそうだ。活気あり、笑いありで。しかし、今ではこの有様」


 老人はにぎやかだった頃の大阪を思い浮かべた。先祖さんはどんな生活を送ってきたんだろう。


「そうですか。そんな時代に生きたかったな」


 その時代に生きたことはないものの、ローズはにぎやかだった時代を自分で想像した。いろんな人がいて、にぎやかだったんだろうな。


「もう後戻りできんのじゃ。地球が荒れ果ててしまった以上、なすがままに生きねば」


 老人は残念そうな表情だ。もう荒廃した以上、後戻りはできないと思っていた。


「そうですか」


 ローズも残念そうな表情だ。あの頃に戻ればいいのに。そうすれば平和な世界が訪れるのに。もう戻れない。


「あんた、どこ行くんだい?」

「もっと西です。エジプトのピラミッドがあった所に、伝説のお宝が眠っているんです」

「そうかい。気ぃつけてぇな」


 老人は驚いた。海の向こうの世界なんて知らなかった。行こうと思っていなかった。こんなところにお宝があるのか。


「ありがとうございます」


 ローズはお辞儀をした。老人は笑顔で答えた。


「まぁ、入って」

「ありがとうございます」


 ローズは言葉に甘えて中に入らせてもらった。中は決して清潔とは言えない。色んなものが散乱していた。ローズの家とは全く違っていた。


 老人は料理を作り始めた。この辺りで採れた山菜で作った雑炊だ。老人は米を栽培しながらほぼ毎日これを食べている。暇な時間には山菜を取っている。


 老人は雑炊を差し出した。雑炊と言えども、具がほとんどない質素なものだ。昔はもっと具が多かったが、今ではこんなのだ。


「まぁ、食えや」

「あ、どうもすいません。いただきます」


 ローズは雑炊を食べ始めた。いつも食べてる食事と同じぐらいのおいしさだ。でも、昔はどんな味だったんだろう。もっと具があって、おいしかったんだろうか。


「昔はもっとうまいのが食べれたんだけどな」


 老人は昔食べた雑炊を思い出していた。あの頃は比較的具が多かった。たったいっぱいでも満腹になれるほどだった。


「そうですか。僕はこれが普通だと思って生きてきたんですが」

「いや、昔はそうじゃなかったんだよ」

「その時の料理、食べてみたいな」


 ローズは生きたことのない昔を思い浮かべた。


「もう無理じゃよ」


 老人は残念そうな表情だ。


「先日、変な奴らが来たんです。人間を捕らえて、牢屋に入れてるんです。おじいさんも、気を付けてくださいね」

「そんな奴らが来とんのか。気ぃつけんとな」

「僕も昨日まで捕まってたんですよ」


 ローズは雑炊を食べ切った。


「それじゃあ、私はこれで」


 ローズはすぐに家を出て、ホバーライダーに乗った。さらに西に向かい、ピラミッドを目指す。


「お宝を見つけて、世界を救ってこいよー」

「お元気で」

「じゃあね。行ってくるから」


 老人は外に出て男を見送っていた。いつかまた会えたらいいな。そして、世界を救ったら再び会おう。




 デュラン達に見つからないように、ローズは森の中を走っていた。森は静かだ。誰も住んでいない。この辺りには、木材や鉄骨の跡が所々にある。ここは工業地帯だったんだろうか?


 ローズは海の前にやってきた。何も見えないが、その向こうには、ユーラシア大陸が見えるはずだ。ピラミッドのあるアフリカ大陸はその先だ。


 ローズは全速力で海の上を走った。強行突破するしかない。見つかってでもいい。全速力で駆け抜けよう。


 その時、声が聞こえた。デュランだ。海を渡っているところを見つけた。


「待てーっ!」


 やはり見つかってしまった。今度こそは絶対逃すもんか。デュラン達は全速力で追いかけてきた。


「くそっ、逃げよう!」


 ローズは全速力で逃げた。捕まったら殺される。絶対に逃げ切らなければ。


「逃がさんぞ!」


 全速力で走っていくと、大陸が見えた。ユーラシア大陸だ。ユーラシア大陸はほぼ森が生い茂っている。昔は多くの建物が立ち並んでいたんだろうか。


 ローズはスパートをかけた。ユーラシア大陸の森の中に逃げよう。そうすればまた逃げ切れるはずだ。


 ローズなユーラシア大陸に着いた。ユーラシア大陸はとても静かだ。もう何年も人がいないと思われる。建物の基礎が所々に残っている。どんな建物があったんだろうか。


 ローズは森の中を全速力で走っていた。早く逃げ切らなければ。その間にもデュラン達は迫ってきた。ローズは右に左に急カーブを繰り返し、振り切ろうとした。


 数十分ほど走って、ローズは何とか逃げ切ることができた。ローズは疲れ果てていた。しかし、今はそんなことをする暇はない。また奴らが追いかけてくるかもしれない。


「くそっ、また逃がされたか」


 デュランは悔しがった。見失ったのは2回目だ。とても悔しがった。アルス隊長のためにも、絶対に見つけて殺さねば。もう失敗は許せない気持ちでいかないと。


「ここまで逃げられたのなら、宇宙戦艦で追いかけるぞ!」


 アルスは拳を握り締めた。絶対に捕まえてやる! 銀龍王を復活させてなるもんか!


「了解!」


 デュランは考えた。宇宙戦艦をそっちの大陸に移動させて、そこで捜索すれば見つかると思った。

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