第2話 旅立ち

 牢屋の中で、ローズはうずくまっていた。ローズは不安になっていた。平和に暮らしていたのに。楽しかったのに。突然やってきた悪い奴に捕らわれて、牢屋の中にいる。あの頃が懐かしい。あの頃に戻りたい。でももう叶わないだろう。


 と、見張りがやってきた。その見張りは鞭を持っている。


「開けろ! 開けろ!」


 隣の牢屋の男が必死に檻を叩いた。しかし、開けてもらえなかった。見張りは彼らを無視していた。開けてはならないと思っていた。


「うるさい! 静かにしろ!」


 見張りは持っていた鞭で檻をつかんでいる手の指を叩いた。


「ギャー!」


 男は叫び、手を離した。男は痛がった。こんなに痛い目にあうのは、生まれて初めてだ。


 その頃、アルスは宇宙船内の隊長室でくつろいでいた。中は宇宙船の中でもとりわけ豪華だ。様々な彫刻が置かれていて、まるでお金持ちの部屋のようだ。


 大佐のデュランがやってきた。隊長の座に長らく君臨しているベテランだ。どの兵士からの信頼されていて、尊敬しているアルスからも信頼されている。


「ご苦労」


 デュランは敬礼した。


「ありがとう。あと気がかりなのは、銀龍王のことだな。あれが封印されているオーブを潰せば、世界を闇にすることはできるんだが」


 アルスは10万年前に封印された時のことを思い出した。人間が銀龍王を目覚めさせたために、封印された。あの時の屈辱を、アルスは忘れていなかった。


 銀龍王はこの世界の守り神と呼ばれている存在で、世界のあらゆる悪を封印する力を持っている。しかし、そのあまりにも強い力がゆえに、宝石に封印されているという。その宝石が割れた時、世界は永遠の闇に閉ざされるという。


 その宝石は今でも世界のどこかにある。しかし、全く知られていなかった。いや、知られてはならなかった。その宝石が割れれば、世界が永遠の闇に閉ざされるからだ。


「銀龍王・・・、そうですね。あいつさえ蘇らなければ」


 デュランをそれを警戒していた。デュランもアルス同様封印されていた。デュランはあの時の復讐に燃えていた。


「封印されたくないからな」


 その話を盗み聞きしていたローズは驚いた。幼い頃、祖父から聞いた銀龍王の話が本当だったとは。自分が付けているペンダントは銀龍王の宝石のあるピラミッドを表すものだ。それはエジプトだったところにあるらしい。


「銀龍王・・・、だと?」

「聞いたことあるのかい?」


 ローズと同じ牢屋にいた人が反応した。その男はローズの家の向かいに住んでいる人で、ローズとはとても親しい。


「祖父から聞いたんだ。この世界の光の守り神なんだ。でも、誰も信じないんだ」

「そうののか」


 男は真剣に聞いていた。これが世界の運命を左右するかもしれないからだ。


「みんな信じないんだ。僕もいると信じれなかったんだけどな。まさか本当にいたとはな」


 ローズは子供の頃を思い出していた。銀龍王のことを言っても、誰も信じてもらえない。いじめられて、不遇な学校生活を経験した。そして、いつの間にか信じなくなった。


「何とか脱出してそこに行かないと。行って覚醒させれば世界は救われるかもしれないよ」

「そうか。脱出する手段を探さんとな」


 男は脱出する手段を探そうと考えていた。こんな地獄のような生活を抜け出して、自由を手に入れてやると思っていた。


「ん? どうした? 胸を押さえて」


 後ろから別の男が声をかけた。その男はそれまで寝ていた。ローズの具合が悪いと思っていた。


「このペンダントのこと」


 ローズはペンダントを見せた。あまり人前で見せたことはなかった。しかし、これが世界の命運を握るかもしれないと感じたら、見せなければいけないと思っていた。


「ああこれね」

「世界を救うために必要なんだって」


 ローズは真剣な表情だ。これが世界の命運を握っているかもしれない。


「それって本当なのか?」

「ああ。あいつら、銀龍王に封印されたんだけど、このペンダントに描かれた場所にオーブがあるんだって」


 ローズは祖父から言われたことを話した。このペンダントの模様が何を意味するのか、そこに何があるのか。今までそれを真剣に聞いた人はいなかった。しかし、男は聞いていた。ローズは初めてその話を信じてくれる人に会えた。ローズは嬉しかった。


「そうか。出れるかな?」

「あればいいんだけど」


 ローズは深く考え込んだ。どこか、逃げだせるようなところないかな?




 夜、みんなが寝静まった頃だった。牢屋の周りはとても静かだ。牢屋の中の人間も、見張りの獣人も、みんな寝ていると思われる。明かりはほとんど消されている。


 男はいびき声に気づき、辺りを見渡した。すると、見張りの兵士がいびきをかいて寝ていた。


「おい、寝ているぞ!」

「ほんとだ、いびきかいてる」


 ローズも兵士がいびきをかいて寝ているのを確認した。この間に逃げられないかと思った。しかし、この先で捕まったら、殺されるだろう。


「そうだ!いい考えがある。僕があの兵士に成りすまして逃げよう。中の奴はロッカーに閉じ込めればいいから。」

「鍵を開けるぞ!」


 男は檻から手を出し、隠し持っていた針金をいじって、檻の鍵を開けた。静かだったためか、誰も反応しなかった。


「ああ」

「俺が行く」


 ローズは物音を立てないように、静かに歩いていた。牢屋に閉じ込められた人々はローズを見ていた。見つかったら殺されるからだ。


 ローズは見張りの兵士の机にやってきた。やはり兵士は寝ていた。机に突っ伏して、いびきをかいていた。


 ローズは持ってきたナイフを兵士の首の後ろから刺した。兵士は即死した。ローズは辺りを見渡した。誰もいないことを確認した。


 ローズは兵士の遺体をロッカーに隠し、全身に鎧を装着した。この姿で外へ逃げて銀龍王の石がある場所を目指そう。


 鎧を装着すると、ローズは牢屋に向かった。牢屋の人に声をかけてから向かおう。


「じゃあな」

「絶対に見つけて、世界を救うと信じてるぞ!」

「ありがとう」


 ローズは地下室に向かった。確か地下室には移動のための乗り物がある。それに乗って戦艦から逃げよう。ローズはこっそりと見ていた。


 ローズは地下室にやってきた。そこにはオートバイのような乗り物がある。ホバーライダーだ。下と後ろにジェットエンジンがあって、空中に浮くことができる。今から約2000年前に開発された。どうやら獣人団が収容したようだ。


「これに乗って逃げよう」


 ローズはホバーライダーのエンジンをかけた。と、近くで寝ていた兵士が目を覚ました。


「ん? 何だ?」


 寝ぼけ目の兵士が辺りを見渡した。すると、ホバーライダーに乗って1人の男が逃げようとしているのが見えた。


「よし、逃げよう」


 ローズはホバーライダーで戦艦を出発した。それを見た兵士は驚いた。


「くそっ、逃げられた! 追え!」


 兵士はすぐに報告しようとした。だが、みんな寝ていて、仲間はなかなか知ることができなかった。


「やばい、見つかった! 早く逃げよう!」


 ローズは全速力で戦艦から逃げた。戦艦はまだ動いていない。運転している兵士がまだ気づいていないようだ。


 ローズはホバーライダーに乗って西へ向かった。眼下には森ばかりが広がっている。所々には建物の廃墟もある。文明の跡だ。その先にはビルが立ち並んでいる。廃都となった東京だ。日本の首都だったという。1000万を超える人々が暮らした。だが、環境破壊によって水没した。ビルは日に日に崩れ去り、毒の海に沈んでいく。


 向かうはエジプトがあった所。ピラミッドが目印だ。ローズはこれから始まる長い旅に胸を膨らませていた。


 そこからどれぐらい走ったんだろう。ローズは彼らに見つからないように森の中を走っていた。どこまで行ったら廃都にたどり着けるんだろう。南に行けば海に浮かぶ廃都にたどり着くという。まずはそこを目指そう。そこで寝泊まりして、翌朝またエジプトを目指そう。


 ローズは廃都にやってきた。ここには東京という大都会があったという。しかしもう誰も住んでいない。ほとんどの建物は海に沈み、わずかに残った超高層のビルやマンションが海の中から顔を見せていた。


 ローズはここで一泊することにした。ローズは建物の中に入った。建物のガラスは割れていて、錆だらけだ。しかし、床はしっかりとしていた。最後に人がいたのは何年前だろう。


 中は真っ暗だ。ローズは持ってきたカンテラをつけた。わずかながら周りが明るくなった。


 ローズは辺りを見渡した。ここはオフィスだったようだ。部屋の所々には額縁が飾られている。その中には集合写真もある。会社の役員と思われる。


 ローズは賑やかだった頃を思い出した。戦争が起きる前はどんな日々だったんだろう。きっと平和な日々だったのかな?こんな時代に生まれたかったな。ローズは過去の世界に憧れた。


 ローズは床に寝転んだ。ローズは牢屋のような限られた場所にいるのが辛かった。こんな日々が続けばいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る