幕間 それぞれの日々

王子は懐中時計に想う

 父から贈られた懐中時計。物心ついた時から、僕は肌身離さず持っていた。

 けれど小さな頃は、時計を見るのが憂鬱だった。

 勉強に、礼儀作法、王室の行事。きりのいい時間から始まることは、みんな退屈だったから。


 だけどある日彼女と出会って、時計を見る憂鬱さから解放された。

 幸せな時は長く続かなかったけれど、彼女は再会を約束してくれた。

 どれだけ針が回ったら、あの人とまた一緒にいられるのか。

 寄宿学校で過ごす昼休み、木陰で僕はぼんやり懐中時計を見つめていた。


「ダリル、時間だぞ。どうかしたか?」

 そんな僕に、友人のパットは怪訝な表情をする。

「何でもない。今行くよ」

 僕は時計を懐にしまって立ち上がり、午後の授業へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る