第十八話 入り混じる不安

~ 2004年9月19日、日曜日 ~

 出張から帰ってきた翌日、一日休暇をもらい疲れが取れた午後から春香の所へと見舞いえ行った。

 春香の病室の前に立ち自分を平静にさせてから目の前のドアをノックした。

『コンッ、コンッ、コンッ』

「ハイ、どうぞぉ~~~」

 中から直ぐに反応があった。その声は紛れも無く春香の声だった。

〈・・・本当にもう一度、目覚めたんだ〉

 彼女が目覚めた事が嬉しくなって目尻にちょっぴり涙を浮かべていた。

 私はそれを拭いその言葉に返事を返す。

「春香ァ~~~、時間取れたから見舞いに来たわよぉ」

「香澄ちゃん、いらっしゃい」

「元気してたぁ~~~?」

 彼女にそう聞くと言葉でなく表情で返してくれた。

 前、目覚めた時と違ってこの笑顔が私の知っている春香だった。本当に良かったわ。

「うん、ヨシヨシ、元気そうだね」

 春香に昨日まで行っていた取材の事を話していた。

 春香その話を甚く気にいってくれたみたいだった。

 春香が退院し彼女が本調子になったら皆で〝行きたいなぁ~~~〟って言ってくれたわ。

 結構長い時間、話していた様な気がする。

 話のネタが尽きた頃、春香は冷静な口調で私に何か言ってきた。

「香澄ちゃん、私のいない間、宏之君を支えてくれて有難うね。貴女が彼と今どんな関係なのか知っているのでも恨んだりしないから」

「エェッ?何で春香がそのこと知ってんの?宏之はまだその事アンタに言ってないって言っていたのに」

〈エッ、何なんで春香そんな事、知ってんのよ?若しかして私のいない間に宏之が言ってくれていたの?〉

 内心凄く嬉しくなったけど・・・。春香の言葉はそれを簡単に打ち破ってくれる。


「私がそれをどうして知っているのか、誰から聞いたのかはどうでもいいの。でもね、宏之君が貴女の元から私の元に戻ってきても私を恨まないでね」

『ビシッ!』

 春香のそれを聞いた瞬間、思わず彼女に平手打ちをしていた。

 彼女に何も言えず嫉妬の涙を浮かべ出てしまう。

 春香のあの冷静な口調、あの大人びいた考え方に嫉妬してつい彼女にビンタをしてしまった。

 そんな自分が余りにも子供らしく思えてしまった。だから、余計、惨めに感じてしまい涙していたわ。そして、ずっと前に慎治から聞かされていた言葉を思い出しても居た。

 私と宏之との間は今中途半端な位置にある。

 宏之、きっと私達の関係を春香に言ってくれていない。

 春香は宏之が私から離れてしまっても怨まないでなんて言うし・・・、どうしたら私は宏之との関係を保ち続ける事が出来るの?

 女の魅力って何?

 私にはわからなくなっちゃったよ。でも・・・、

 それでも私は宏之が好きだから仕事を終えるのが遅くなっても彼の所へ通っていた。


~ 2004年9月22日、水曜日 ~

 午後9時に綾と会社を出た。出張したとき集めた資料が余りにも膨大で毎日残業状態だった。夜通しで仕事しなくちゃいけないっても考えていたけど氷室上司が残業は遅くても9時までだと命令されていたのでそうなる事はなかった。

 それから綾と外で暫く話してから宏之の所に向かった。

 途中、遅すぎる夕食の買い物をして彼の所へ向かう。

 宏之の所へ行くのがわかっている時はどんなに遅くなっても彼、大抵何も食べないで待っててくれる。だからなるべく急いで彼の所へ向かったわ。

「ヒロユキィ~~~、遅くなってゴメンねぇ、今帰ったよぉ~~~」

「ああぁ~~~、うん、おかえり。香澄、最近、残業ばっかで辛くないか?」

「仕事だからしょうがないって。それに遣り甲斐あるから気にしてないわ」

「そっか、それはよかった」

 私はそう言葉にしながら台所へ移動した。

「遅くなっちゃたけど、直ぐに準備するから待っててね」

「いつも悪いな」

「良いって、それにそんな風に思うんだったらちゃんと気持ちの整理つけてよね。アタシだって何時までも耐えられないんだから」

 私は笑みを向けながら彼にそういった。

「あっああ、わかってるさ」

 宏之は鼻の頭を掻きながら顔を紅くして、曖昧だったけどそう言ってくれた。

 食事の支度を終えそれを食べ始めた時、宏之は春香の事を話してきた。

 それは彼女の退院の日付の事だったわ。

「春香の退院の事なんだけどさ・・・、日取りが決まったんだ」

「エッ、そうなの?それは何時」

「来週の月曜日27日だけどその日香澄は春香のそれに来れるのか?」

「チョッチ、それは無理っぽいなぁ。ほら今月の頭に行ってきた出張あるでしょ?それを来月までに仕上げないといけないのよ。それが思っていたより大変でこの通り毎日残業土日出勤当たり前よ。だから、一日でも外せないのゴメンしてね」

「それならしょうがないな・・・、でもあんまり無理スンナよ。香澄に倒れられたりしたら俺どうしたらいいのか判んなくなっちまうから」

「何それアタシの心配じゃなくて自分の心配?」

 そうじゃないのを分かっていたけど悪戯な笑みで私はそう聞き返していた。

「違うよ。香澄、お前の心配をして言ったんだ」

「ホントうにぃ~?」

「本当だって信じろよ」

「信じて上げる・・・、アリガト」

 こんな会話をしていると本当に宏之は春香と私の事で迷っているなんて全然思えない。だから、こんな何気ない会話が出来る状態が何時までも続けば良いのにって思ってしまう。

 春香の退院の話だけど私も本当に行って上げたかった。

 今の彼女に会う事を何となく脅えていたけど出来れば彼女のその日にあって退院の祝い言葉を言って上げたかった。

 でも本当に今仕事が忙しいからそれは無理な注文。


~ 2004年9月30日、木曜日 ~

 連日、スッごく仕事が忙しくて宏之の所へ行く事が出来なかった。そして今日もそんな日だった。でも、今日はちょっとばかり特別な日だったわ。

 仕事忙しくてなかなか貴斗の見舞いに行って上げられなかったけど・・・、違う、ホントは彼に面会する勇気がなかったの。

 それは私の所為で貴斗が事故に遭い生死を彷徨う事になってしまったから・・・。だけど、詩織が彼の病室で誕生会をやってあげようっていってくれたからチャンスだわ、って思ってそうする事にしたわ。

 出席者は詩織と私の他に退院したばかりの春香、宏之、それと慎治。

 その五人で貴斗のそれを祝ってあげる事になったわ。

 貴斗の会うのが恐かったけど、春香に会うのも・・・、だけど・・・・・・、みんなが一緒だから何とかなるかなって思って勇気を出して、それに出席していた。

 その時、本当に久しぶりに彼にちょこっとした料理を作って持って行って上げたわ。

 詩織が持ってきた豪勢なものと見劣りするけど・・・、ああ、そうそう、それと春香も何か作って持ってきたみたいだったわ。

 私は多くの事実を知らされないままその誕生会は開かれる。

 後にまだ仕事が控えていたから、みんなには黙ってわからない様にノン・アルコール・ビール、ってのを飲んでいたの。

 酔うことはない。だから、周りの状況がよくわかっていた。

 みんなが集まって会が始まった時、春香と宏之は仲睦まじく楽しく喋っていた・・・、そんな二人を見てしまった私は言いようのない感情に囚われ、それを表面に出してしまいそうになった。だけど、せっかくの貴斗の誕生会を打ち壊す訳には行かなかったから、何とか我慢してそれを抑えたわ。

 貴斗がその二人に向ける視線はとても穏やかだった。

 まるで彼にとってその光景があるべき形って感じの目・・・。それを見るとまたいやな感情に囚われてしまいそうになっていたわ。

 詩織がお酒を飲んで、貴斗に絡み始めた頃、彼はどうしてか彼女の行動に困惑している様子だった。

 真実を知らない私にはその光景が異様に思えてしょうがなかった。だけど、気になった事がひとつ、貴斗、私の事を見る眼がとても優しかったように思える。

 どうして?あんな酷い事を彼にしてしまったのに?どうして、そんな表情を向けるの?その男幼馴染みの瞳はもう何年も前に詩織や私に向けていたものと同じだった。

 そう、それは私が好きだった頃の彼の柔和な表情と優しい瞳のよう・・・。

 言いたい事、聞きたい事は一杯あった。だけど、それを口に出してしまえば、場の雰囲気を壊してしまいそうで・・・、すべて押しとどめていたわ。

 いい雰囲気のまま、しばらく、六人で談笑していた。

 貴斗の場合はあまり話しに混ざってくる事はなかったけど楽しかった。

 三年前の何のわだかまりもないあの頃のように。

 仕事の事もすっかり忘れてしまい、どのくらい経った頃だろうか、学校帰りの翠とその連れ二人が貴斗の病室の訪れたわ。

 再び、彼の誕生会は盛り上がりを見せた。しかし、終局でそれは大逆転してしまう。

 詩織が貴斗に言った言葉で翠が激怒し、言いたい事を言って飛び出してしまったの。

 そのとき初めて彼女の私に向けていた本当の気持ちを知ったわ。

 それはまるで事故る前の貴斗が私に向けていた気持ちと一緒みたいな。だから、嬉しい気分になったけど、それも一瞬の事。

 その場は貴斗の言葉で平静を取り戻したけど、彼は翠をおって傷だらけの体を引き摺り、彼女を探しに行ってしまった。

 私も、詩織も動こうとする彼を止めたけど、今の私達の言うことなんて耳にも入れてくれなかった。

 大丈夫じゃないはずの貴斗が動き出しちゃったんだ物、私達も動かないで居る事なんて出来るはずなかった。だから、みんなも病室を飛び出して、翠を探しに向かったわ・・・。

 翠が見つかった時点で貴斗の誕生会、その会は解散となった。

 結局、最後まで面と向かって貴斗と話す事は出来ずにその場は流れてしまった。

 それから、色んなことが起こりすぎて頭の中がパンク状態で仕事に戻っていた。

 それでも仕事中はそれを押しのけ、綾がお休みの今日は一人でがんばったわ。


*   *   *


 深夜の仕事帰り、家の近くの夜道で缶ビールを飲みながら歩いていた。ちゃんとアルコールの入ったやつよ。

 それを飲んで酔っ払っていれば、頭の中を占拠していた色々な悩みを一時的にでも忘れる事が出来るから。

「ぷっハァーーー、ビールって良いわねぇ~~~」

 酔いで頬を紅く染めながらそんな独り言をしていた。

 何となく気分的に近所の公園に行ってみたくなったから家路の方向からそちらへと足の向きを変えた。

 その場所に到着すると初めに目に付いたのはブランコに静かに座っている月光にて照らされた一人の女の子だった。

??????と私は頭の上にはてなマークをいっぱい点灯させながらその方へと移動した。

「しっおっりぃ~~~ん、どぉ~~~ッたのぉ~~~、こんな所で淋しくしちゃってさぁ~~~」

「香澄なのぉ?」

「どぉ~~~ったのぉ、しおりンっ」

「かすみぃ、カスミぃ、香澄ぃ~~~~、ウックッ、ヒック、ッンック、タカトがぁ、貴斗がぁーーーっ、エェ~~~~ン」

「??????」

 詩織は私の名前を何回も呼ぶと私の胸にしがみ付き可愛らしく嗚咽しだした。

「ヨチ、よち、しおりンどうしたの?おねぇたまにいってごんなさぁ~~~」

 酔いの所為で私の言葉はとても変だった。

 それでも詩織を確りと胸に抱き彼女の頭を撫でてやる。

 暫く、そうしてやると詩織は冷静さを取り戻し私から距離を置き何かを話してくれる体勢に入った。

 彼女の泣く姿なんて見ていたら酔いが醒めてしまっていたわ。

「しおりン、少しは落ち着いた?」

「はい・・・、泣いたら気分が楽になりました」

「そう、良かった・・・、で?貴斗がどうしたって言うの?・・・、もう泣いちゃ駄目だからね」

 詩織が話す前に釘を刺しておいた。

 そうでもしないとまた泣くような表情をしていたからよ。

「ヒクッ、香澄の意地悪ぅ・・・、貴斗の事だけど」

 それから、どうして詩織が落ち込んでいたのかその理由を私に語り始めた。

 それは詩織と貴斗の関係の事だった。

 貴斗も先月、何とか峠を越し、息を吹き返したのは綾から聴いていた。

 それに今日ちゃんと彼の姿を確認してそれは知っていたわ。だけど、それ以外の理由を耳にして・・・、動揺を抑えきれなくなってしまったわ。

 なんと貴斗は記憶を取り戻したって言うのよ。

 すっごぉーーーく嬉しい事なんだけど・・・。

「しおりン、それだったら、めちゃ良い事じゃないっ!なんで泣くのよ?」

「ダッテ、ヒクッ、ウックッ」

「ああぁーーー、泣くかない、泣かないで、泣くなら全部、言い終えてから」

 そう言うと詩織は唇をかみ締め、泣くのを耐えてまた話し始めた。

 続きを聞いたとき頭が混乱してしまった。

 記憶喪失が直ったけど新しい記憶をなくしちゃった?何それ・・・、記憶喪失と何が違うの?

「ですから、私達が幼馴染みだった時の事を思い出してくれましたけど私達が再開した後の三年間を忘れてしまったの」

「何?じゃ若しかして昔を思い出しちゃった所為でしおりンと貴斗の関係が不味くなっちゃったとか?」

 今聞き返したことで、ようやく、アイツが病室で詩織に突きつけた言葉の意味を理解した。

「ウッンッグ、ヒック、グスッン」

 私の口にした事が図星だったのか?また、詩織は大粒の涙を両目尻に溜め今にも泣きそうな雰囲気だった。でも、それを耐えてさっき以上に下唇を噛み締めながら頭を縦に振って私の言った事を肯定して来た。

 なんか私達幼馴染み二人して恋人の事を悩んでいる。

 しかも二人の男はとても近しい存在の奴らだった。

 なんだか私も泣きたくなった。でも、その前に詩織に泣かれちゃったから彼女を宥める事で私の気分を吹っ切る事にしたわ。しかし、詩織は私にもっと重大な事を隠していた。そして、それを知るのはずっと先の未来になるんだけど・・・。

 家に帰ってお風呂の入りながら今日の事をひとまず整理してみた。

 貴斗はちゃんと目覚めて、そして、記憶を取り戻してくれていた・・・、中途半端に。

 昔を思い出してくれたからあの会合のとき私に向けていた瞳が優しかったのかもしれない・・・、だから、詩織が酔いの勢いで口にした言葉に対して、あんな返事を返したんだよね?

 貴斗が記憶を取り戻してしまったため詩織との関係が・・・。

 宏之と春香・・・、今は考えたくないわ・・・。

 これ以上考えたら気分が重くなってしまうと思ったから、このままお風呂で溺れてしまいそうだとそんな風に感じたから、それを辞めさっさと湯船から上がり就寝する事にした。


~ 2004年10月10日、日曜日 ~

 氷室上司が〝残業も程々にしなさい〟って言うから通常業務時間で会社を出て今日は久しぶりに宏之の所へ来ていた。

 今日はバイトじゃなかったのだろうか?彼はいつもより早く帰ってきた。

 彼を玄関で迎え入れる。

 そのとき宏之の表情を見たらなんか不安そうな顔をしていた。

「宏之、どうしたの何か心配事?」

「ハハハッ、両親がいつ帰って来るか心配してるだけだよ」

 ソッカまだ宏之の両親は帰ってきてなかったんだ。よかった。

 ついでに春香に私たちの関係を言ったのか、どうかを尋ねてみた方が、いいのかと頭の中をよぎった。

「ねぇ、それより宏之、アンタ春香にはもう言ったの?」

「まだ・・・、まだいってない・・・。だけど、今月の終わりには必ず言うそれまで待ってくれ」

「分かった、今しばらく我慢する。でも・・・、でも、必ずアンタの口から言ってね」

 詩織の事もあったから、私も少しくらい我慢しなくちゃいけないと思っていたわ。

「あぁ・・・・」

 宏之の曖昧の返事、それも最近なれてきちゃったわ。だから何も言わないで夕食の準備に取り掛かった。

 それからいつもの調子でテンポ良く料理をし、テーブルにそれを並べる。そしてそれを摘み食いする宏之。

 今まで何回も同じ事を繰り返してきたのにこれが崩れてしまったら私は生きていけないかも?


*   *   *


 夕食も終え私が台所で片付けをしていたら、

『ピィ~ンポォ~~~ン♭』と呼び鈴の音がしてきた。

 そして、それに答えるように宏之が玄関口に移動して行ったみたい。

 洗い物が終わっても宏之が戻ってこなかったから私もそっちに向かってみた。

「宏之、誰が来たの?」

「俺の両親だ」

「お嬢さん、初めましてこいつの父親をやっている司です」

「はじめまして、母の美奈と申します」

「宏之、この可愛らしいお嬢さんは誰だ?」

「徒の女ダチだよ」

〈宏之、アンタ、アタシをちゃんと二人に紹介してくれるって言ったのに何よ、それ!〉

「なんだ、てっきりお前のこれかと思ったんだが」

 せっかく宏之の父親が〝彼女か〟って言ってくれたのに・・・、宏之はその言葉を肯定してくれなかった。

「アタシ、アンタの両親との団欒邪魔したくないから帰る」

 無性に腹が立った。

 両親の手前、表情は崩せなかったけど強めの口調で言葉を言い残すと彼の家を飛び出していた。


~ 2004年10月11日、月曜日 ~

 仕事の後、どう仕様もなく誰かの胸で泣きたかった。だから、一人それを許してくれそうな人を呼び出しその人の胸の中で泣いた。

「もう、泣くなよ、泣いたって何の解決にもならないだろ」

「どうして、どうしてっ、宏之は毎日、毎日、春香の所に会いに行くよ!何でアタシのところへ来てくれないのよ」

「落ち着けよ、隼瀬!」

「シンジぃ~~~」

「今になってあの事が仇になったな、隼瀬」

「えっ!?そっ、それは・・・・、だって」

 慎治は今になって、忘れていた事を言いだして来た。

 それは私が原因で春香があんな目になってしまった事。

 その原因を宏之に伝えていなかった事。

 宏之が春香のところに戻っても悔やまないって約束した事。

 約束した積りなんてなかったけど・・・、それを思い出したら辛くて余計に泣きたくなってしまった。

「ウック、フンッ、ヒクッ、ワァ~~~~」

 また暫く、慎治の胸の中で泣かせてもらった。彼は黙って抱擁してくれていた。

「落ち着いたか?隼瀬」

 彼はとても優しい表情で、そう言葉を掛けてくれる。

 ヒーリングスマイルって言うのかな?それを見ると気分が和らいでいた。

 流石はカウンセラーの息子!

「慎治、アリガト、もう大丈夫だから」

「俺は隼瀬に何て言って良いのか分からない。だけど、宏之の事いまも変らず想ってんだろ?だったら信じろよ、奴を」

 慎治はそれだけ言葉に残すと、私の返事も聞かないまま背を向け小さなこの公園を去って行った。

 月の光の所為なのか彼の背中はとても大きく格好よく見えた。

〈しんじ・・・、ありがとう〉

 でも、どうして慎治は私に親身になってくれるんだろうか?永遠の謎よね。

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