第31話 相談
俺の質問には主にマリアさんが答えてくれる。
おそらく、この孤児院の実務はマリアさんが担っているのだろう。
「この町の孤児院はここだけですか?」
「はい、そうです。」
「子供の数がずいぶん多いようですね。」
「冒険者の街だけあって、親を失って孤児になった子や幼いうちに捨てられた子などが多いのです。」
「なるほど、そういう事情ですか。」
「はい、悲しいことですが」
「見たところ子供たちの表情は明るいようですね。」
「幸いなことに子供たちはたくましく健やかに暮らしています。」
「システィーナさんやマリアさんの献身のたまものですね。」
「そういっていただけると嬉しいです。」
「孤児院の経営はどのようになされているのですか?」
「領主様からの定期的なご寄付と、町の住民たちからの寄付で主に運営しています。」
「なるほど。ただ施設の修繕費を賄うほどには十分ではない?」
「そうなのです。子供たちの食費や衣服代は削るわけにはいきませんからなかなか施設の修繕となると後回しになってしまいます。」
施設の中を案内されながら観察したところ子供たちの様子は極めて良好。
施設にはところどころに修繕が必要な個所がある。
これなら考えてきた提案を受け入れてもらえる可能性は高いか。
「システィーナさん、マリアさん、私の方からの提案としては主に2つです。一つは孤児院から働くことができる年齢になった子供たちを私の元で雇うということ。もう一つは孤児院の機能拡充です。」
「もう少し詳しくうかがってもよろしいですか?」
「1点目について。私は屋敷でスライムの研究をしています。その研究資金と研究のために必要な材料を手に入れるべく、薬草園、養魚場、牧場などを開設する予定です。そこで働くスタッフと、私の研究の助手をこの孤児院の子供たちの中から見つけたいと思っています。報酬はそちらと相談して決めさせていただくつもりです。納得いただける以上の額をお支払いするつもりです。」
「スライムの研究をなさるのですか?かなり奇妙なことに思われますが、それは置いておいて、なるほど、1点目についてはわかりました。」
「では2点目についてです。この孤児院の機能の拡充についてです。まず、この孤児院に金貨を100枚ほど寄付させていただきます。それを使って孤児院の管理上これまでやりたくてもできなかったことをぜひやってほしいのです。そのうえで、子供たちに基本的な読み書きや計算、基礎的な薬草学や魔物についての知識を教授する機会を設けてほしいと思っています。」
「金貨100枚ですって!そんな大金、ユカワ様!領主様の定期的な寄付ですら1年で金貨5枚といったところです。」
マリアさんを驚かせてしまったみたいだった。
システィーナさんが代わりに言葉を継ぐ。
「ユカワ様、金貨100枚ものご寄付をいただいても私どもの手ではあなた様が期待なされているほどのことはできそうもありません。例えば、孤児院の子供たちに基礎的な教育を施すためにはわたくしたちだけでは限界があります。そこで、いただいた寄付金で王都のアカデミーから教師を招いても構いませんか?わたくしの古い友人がそろそろ現役を引退する予定なのです。」
「システィーナ院長、それも含め金貨100枚の使い方については皆さんにお任せします。私は孤児院の経営について全く詳しくありません。ただ、今後も皆さんのように社会のために献身して子供たちの未来を豊かにしてくれるような活動をぜひとも支援していきたいと考えています。」
「ありがとうございます。かしこまりました。ただ、わたくし共は独立した組織としての活動を望みます。大金を寄付していただくユカワ様とはいえ、そちらがお求めになるものをすべて差し出すことができるわけではないという点はご了解ください。」
「もちろんです。あくまで寄付です。」
どうやら相談はうまくいったようだった。
ほかにも何点かお互いに確認したり、疑問を解消したりした。
そうして、話は俺が実際に孤児院の子供に会う方向に進んでいった。
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