第22話 羊のしっぽ亭

北門の詰め所を出て大通りに沿って進んでいくと屋台から胃袋を刺激する様々なにおいが漂ってくる。もう夕方ということもあって屋台で食べ物を買って軒先で乾杯をしている人族や獣人族がいる。どうやらこの町には獣人族への差別なんかはないようだ。みんな和気あいあいと暮らしているらしい。


いろいろな屋台を覗きながらぶらぶらと通りを進んでいくとウォーレン隊長が言っていた羊のしっぽ亭が見えてきた。

「お兄さん、もう宿はお決まりですか?」

突然もこもこした生き物に声をかけられた!

「ん?もこもこがしゃべった!?」

「お兄さん、ちゃんと見てください。私は羊人族です!そこの羊のしっぽ亭に今日泊まっていきませんか?」

「おっ、これは失礼。そうそう、ウォーレン隊長に紹介されて、羊のしっぽ亭に泊ろうと思っていたところなんだよ。」

「そうなんですね。ウォーレン隊長のご紹介とあっては、今すぐご案内しますのでどうぞどうぞ!」

「ありがとう。君はこの宿の娘さんかな?」

「はい、そうです。この宿の女将の娘でペレネーといいます。」

よく見るとこの子、確かに、もこもこしている部分もあるが顔とか体つきとか普通の人族の少女とそんなに変わらない。

「初めまして、ユカワ・ヨウイチロウといいます。魔法使いです。滞在は2泊3日くらいを予定しているんだけど、適当な部屋が空いてるかな?」

「魔法を使えるんですか!すごい何か見せてほしいなぁ。あ、部屋の方は大丈夫です。広場に面した南向きのいい部屋が空いてますよ。」

「そうか、それは良かった。今見せられる簡単な魔法といえば…」

俺はぱちんと指を鳴らして無詠唱で透き通った氷の塊を空中に出現させた。そして、目の前にいるペレネーの形の氷像に変えた。

もちろんそれっぽく見えるように氷塊の下に魔法陣を展開してそこから出るレーザー光が氷塊を氷像に作り変えていく様子が見えるようにした。

「ヨウイチロウさんすごーい!こんなことできるんですか。ね、ね、この氷の像私にくれませんか?」

「もちろんだよ。君へのプレゼントだ。」

「ありがとうございます!すごくうれしい!」

「喜んでもらえたようでよかったよ。」

「でも、こんなきれいで素敵な魔法があるなんて見たことありませんでした。魔法っていうと普段は攻撃用の乱暴な激しいものしか目にできませんから。」

「こんな感じの魔法ならいろいろレパートリーがあるから、宿に泊まっている間にいくつか見せようか?」

「ぜひ!お願いします!」

「何を見せようかなぁ」

「あ、ヨウイチロウさん、つきました。お母さーん、お客さん連れてきたよー!」

「あらあら、お客様、すいません、うちのおてんば娘が」

「いえいえ、元気があっていい娘さんですね。」

「もお、お母さん、私おてんばじゃないよ!」

頬を膨らませて怒って見せるペレネーはとてもかわいい。

「はいはい、わかったわよ。」

「こちらはユカワ・ヨウイチロウさん。北門のウォーレン隊長にうちの宿を紹介してもらったんだって。魔法使いさんでこの私の氷像さっき作ってくれたんだよ!」

「あらあら、お客様、お手を煩わせて申し訳ありません。」

「いえいえ、楽しかったですから。それにこのくらいの魔法は朝飯前ですから。」

「お母さん、ヨウイチロウさんは2泊3日の大罪をご希望だから2階の広場に面した南向きのあの部屋にご案内しようかと思うんだけど」

「そうね。あそこはちょうど今空いているから大丈夫よ。」

「じゃあ、先に料金を払ってしまおうと思うんですが、朝と夜の食事付きでいくらになりますか?」

「はい、銀貨6枚になります。」

「では、これでお願いします。」

「はい、確かに銀貨6枚頂戴しました。夕食はすぐできますがすぐ召し上がられますか?」

「はい、そうします。」

「ではご用意いたしますね。その間にお部屋をご確認ください。」


ペレネーに案内された部屋はちょうどいい広さで過ごしやすそうだった。窓からの景色も申し分ない。

「ペレネー、夕食の時って忙しいかな?ラガドに来たのは初めてだから、町のこととかいろいろ聞きたいんだけど」

「ヨウイチロウさん、私にお任せください!今日はお客さん多くないし、お母さんに言って許可をとれば大丈夫だと思います!」

「そうか、それは良かった。じゃあ食堂に行こうか?」

「ヨウイチロウさん、荷物はないんですか?」

「ああ、荷物ね。空間魔法でしまってあるんだ。必要な時に取り出せばいいからとりあえず今は荷物は気にしなくていいよ。」

「そ、そうなんですね。空間魔法なんて聞いたことないからよくわかんないけど、とりあえず大丈夫そうですね。じゃあ、食堂に行きましょう!」

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