第18話 しばしの別れ

馬車の中には3人がいる。俺、パーカーさん、リリアン姫だ。馬車の御者は一連の大騒動の間中どうやら馬車の下に隠れていたらしいバルトロという男性だった。彼が今は御者席にいて馬車を操っている。


「ユカワ様、改めて今回は我々の命をお救いくださりありがとうございました。」

「いえいえ、もうお気になさらず。こうしてパーカーさんやリリアン姫にお会いすることができましたから。」


「パーカー、前置きは省いて早速事情を説明しましょうよ。」

「そうですね、姫様。ではユカワ様、我々のことをご説明したいと思います。」

「よろしくお願いします。」


「こちらのリリアン様は大陸の西に位置する国、ハザール王国の王女様です。いえ、正確に申しますと、先日まで王女様でいらっしゃいました。ハザール王国で起きた宮廷クーデターによってリリアン様とそのお父君でいらっしゃる国王陛下は追放されたのです。国王陛下と一部の家臣、それと私共は何とか国を脱出することはできました。しかし、国王陛下を含め、我々以外は途中でクーデターを起こした者たちに追いつかれ連れ戻されてしまいました。我々は当初ハザール国内の拠点に隠れてとどまるつもりだったのですが、事態が急変したため、魔の森を挟んで東の隣国エルムード王国に亡命することにいたしました。ラガドの街はハザール王国とエルムード王国の国境地域に位置しており、エルムード王国領です。ラガドまでたどり着けば何とか亡命を受け入れてもらえるのではないかと考えていたのです。」


「なるほど。そういう事情でしたか。しかし、ラガドの街で安全を保障してもらえるとは限らないのではないですか?」

「おっしゃる通りです。このままラガドの街に行っても先に追っての手が回っていては自ら罠に飛び込むようなものです。そこで、リリアン様の保護をユカワ様にお願いしたいのです。」


「そうですね、リリアン姫を保護しましょう。私の拠点は魔の森の中にあります。あの拠点に近づけるものはそうそうおりませんから、姫の身の安全は保障いたします。」

「ありがとうございます。ですが、どのように拠点まで移動なさいますか。」


「転移魔法を使いましょう。姫様が転移魔法をお好きでなければ、ワイバーンのミラーに乗って向かう手もありますが、どちらがよろしいですか?」


「私ワイバーンに乗ってみたいですわ。本当に乗せてくださるの?」

「ええ、もちろんです。なかなか気持ちいいですよ。」

「ところで、転移魔法というのは失われた古代魔法ではありませんの?あなたはお使いになれるの?」


「はい、転移魔法はとても便利な魔法ですよ。普段屋敷で使ってます。」


「お屋敷で使っていらっしゃるの!?一体どういうこと!?」

「ユカワ様、転移魔法にも興味はございますが、姫様をワイバーンに乗せて運ぶというのは危険ではありませんか?」


「パーカーさん、ご心配なく。ワイバーンのミラーは決して乗っている人を振り落とすようなことはありません。快適な空の旅をお約束します。」

「そ、そうですか。しかし、姫様だけをワイバーンに乗せるというのは少々心配なのですが。」


「パーカーさん、あなたが付いて行ってあげてください。」

「えッ、私がですか!」


「大丈夫です。初心者の私でも簡単に乗りこなせましたから。乗りこなせたというとミラーがまるでただの馬のように聞こえますが、それは正確ではありませんね。ミラーは大変知能の高い魔物です。おとなしく乗っていさえすれば何の心配もありません。」


「そ、そうですか。しかしユカワ様は一緒に乗られないのですか?」

「私は少々ラガドの街に用がありますから、やはり、ラガドに行こうと思います。帰りは転移魔法を使えば一瞬ですからね。」


「わかりました。お屋敷にはだれかいらっしゃいますか?」


「はい。ミユという名のエルフのメイドがおります。彼女にあなた方のことを伝える手紙を書きますので、それをお持ちください。」

「わかりました。ありがとうございます。」


「いえいえ」


「ユカワ様、ラガドに行かれるのであれば、私の旧知の友人を訪ねてこの手紙を渡してはいただけないでしょうか。その友人はヴァンダールヴルという名で、鍛冶職人町で工房を経営しております。」


「もしや、もともとはその方に保護を依頼するつもりでいらっしゃいましたか?」

「その通りです。彼は以前私がエルムード王国を旅した際に知り合ったドワーフなのです。しばらく旅を共にして気心が知れており、私がハザール王国に戻った後も長く文通などして付き合いのある信頼のおける人物です。」


「わかりました、その方に手紙を渡しておきます。」

「よろしくお願いします。」

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