第15話 ワイバーン:ミラー
そうして、出かける用意をして、昼食をとり、第9階層のワイバーン、ミラーにあいに行った。
「ミラーよーいるかー!」
「誰だぁ、俺の午睡を邪魔する奴は…消し炭にしてやる・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ミラーの好物のスクエアボアの丸焼きを手土産に持ってきたぞ。俺は、ミラーの新しい主人になったユカワ・ヨウイチロウだ。よろしく。」
「ふーん、スクエアボアの丸焼きとは気が利くな。お前がマーリンの後継者で俺の新しい主人か。うん、ひょろっちいがまあ気にしない。で、用は何だ。」
「うん、この後すぐラガドの街に行くのに乗せていってほしいんだ。」
「え――、面倒だな。もう2つくらいスクエアボアの丸焼きをくれたら行ってやっても構わないが。」
「仕方ない、スクエアボアの丸焼き3つやるからどうだ?」
「うん、気前のいいご主人は嫌いではないぞ。いいだろう。これを食べたらすぐ連れて行ってやろう。」
こうして、俺はワイバーンのミラーに協力してもらえることになった。スクエアボアはダイロンの森でファイヤボールを使って捕まえると同時に丸焼きにしたので、まあ、それほど手間はかかっていない。あのスクエアボアたちはマーリンの従魔ではなく、こういう時のために飼われていたようだ。
「じゃあ、転移陣を使うからとりあえずディメンションホールに入ってくれ。外に出たら呼び出すから。」
「了解した。」
「よし、ディメンションホールから出てきてくれ。」
「久々だな、外界は。ずいぶん長いこと第9階層の空中庭園にいたから。」
そう、ミラーのいた第9階層は地下であるはずなのに、空に浮く空中庭園になっていたのだ。いったい先代はなんで、こんなすさまじいことをやったのか気になったがひとまず保留だ。
「ラガドの街に向かうのに、背中に乗せてくれるかな?」
「もちろんだ。さ、乗りな。」
「おお、すごいな、ワイバーンの背中って鱗がざらざらしていて、割と広くて安定しているんだな。」
「そうさ、騎乗用の道具もないことはないが、俺くらい優秀なワイバーンなら乗ってるやつを落としたりしないさ。さ、行くぞ!」
そういうとミラーは翼を動かして一息に飛び立った。ダイロンが空中に駆けあがるのとはまた違い離陸にちょっと驚いたが、興奮する。
「おおおお、すごいなぁ。一気に高度が上がったぞ。それに風を切る感じがすごく気持ちいい。」
「そうだろう。ワイバーンに乗るのは初めてか?」
「もちろん、初めてだよ。」
「そうか、まあ、しばらくの間空の旅を楽しんでくれ。」
「なあ、ミラー、地上でもし、そう、万が一なんだが、山賊に襲われている人や、魔物に追われてるような人がいたら教えてほしいんだ。」
「ん?奇妙なことを言うな。まあ、魔の森にはめったに人は入ってこないから、魔の森の上空を飛んでいる間はないと思うがな。街道に出たらあるかもしれん。」
「そうだなぁ、しばらくは流れる雲と過ぎていく緑の大森林の光景を楽しむとしようかね。」
1時間ほど飛んで、ワイバーンの飛行にも慣れてかなり満喫したころ、
「ヨウイチロウ、そろそろ森を抜けるぞ、あそこで森が終わっている。見えるか?」
「おお、本当だ。じゃあ、あの細い道が街道かな?」
「そうだ。少し高度を落とそうか?」
「そうだな、そうしよう。」
ミラーはぐんぐん高度を落としていく。さっきまでは地上から見上げたとしてもワイバーンだとは気づかれなかっただろうが、今ではきっと地上からでもワイバーンだとわかるはずだ。
「おい、ヨウイチロウ、お前が楽しみにしていた襲われている馬車があるぞ。あれを襲っているのはおそらく盗賊だな。」
「え、本当にそんなこと起きるのか?」
「街道だからな、俺の目にはちゃんと見えてるぞ、ほらあそこだ。どうする助けに行くか?」
「うん、行ってみよう。魔法を使えば盗賊くらいどうってことないだろう。」
「そうだな、お前、それなりに魔法使えるんだろう。」
見えてきた盗賊の集団は馬車を包囲して今にも襲い掛かろうとしていた。
「ミラー、馬車の上から、包囲をしている盗賊団に雷の範囲攻撃魔法を仕掛けるから接近してくれる?あと、威圧の咆哮も使えるならやってほしい。」
「お安い御用さ。行くぞ」
高速で襲撃現場に接近し、周囲数キロにとどろくような咆哮をミラーが放つと、盗賊団はようやくワイバーンに気づいて恐れおののいていた。だが、威圧の咆哮の効果で身動きをとれずにいる。そこに俺が雷撃をお見舞いする。
「雷神の舞!」
盗賊たちの真上に展開した複数の魔法陣から轟音を伴って青白い閃光が無数に放たれ、盗賊たちを失神させていく。この攻撃は少々の魔法防御耐性では防ぐこともできない。盗賊たちはあっという間に全員地面に倒れこんでしまった。なんか楽しい。
「よし、ミラー、馬車の前に降りてくれ。」
ミラーが土煙を巻き上げながら、馬車の前に降り立つと馬車の中から現れたのは、初老の紳士と高貴な雰囲気をまとった金髪の幼女だった。
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