第十五話 望まない邂逅
~ 2004年8月12日、木曜日 ~
夏休みに入ってから数日、顔を合わす事の出来なかった貴斗のヤツの様子を確認するため、バイトの時間前まで電話で話しをする事にした。
他にも用事はあるしな。
「ヨッ、貴斗、元気してるか?」
「あぁ~、死なない程度にな。どうしたんだ、電話なんかして来て?」
「迷惑だったか?」と全然心にも思っていないけど、そう口にした。
「そんなことはない。だが、話ならバイト先でも出来るだろ!」
「今日、おれ早番だ!後1時間ぐらいしたら出るよ」
早番だからと言って早朝からあるバイトがあるって訳ではなくヤツより早い時間帯にシフトが組み込まれているってだけ。
自室のローマ数字を使った壁掛け時計を確認しながらヤツにそう答えた。
「しっかし、強引にアルバイトさせるんだもんなぁ~~~、以前のお前ならそんな事しなかったのに」とからかい序でにヤツにそう言ってやった。
「悪かった。あの時、頼れる奴、慎治お前しかいなかったんだ」
「分かてるよ、冗談で言ってみただけだ。あそこ、不景気だと言うのに時給いいし、バイトの子、結構可愛い子、多いし」
「用件がないなら切るぞ!」
「お前なぁ~、たまにはいいだろ」
コイツの長電話の嫌いな理由を知っていたが、たまには大丈夫だろうと勝手な憶測で話しを進めようとしたが・・・、そんな俺の意図を無残にもヤツは斬り捨てやがる。
「切るッ!」
『ブツッ!?』
〈切りやがった、マジで切りやがった、本当に切りやがった!〉
そこまで嫌いなのか?さて、電話を掛けなおした方が良いかな?とわ思うけど、やっぱ掛け直そうっとヤツに嫌がれる事、重々承知。だが、今一度電話を掛ける事にした。
それは本当に重要な話しがあるからだ。
「お客様のお掛けになった電話番号は現在、使われておりません、電話番号と正しい用件をお確かめになった上もう一度お掛けなおしてください」
ヤツの口から懇切丁寧に長ったらしい嫌味を言われた。
「わかった用件だけ言うよ!」
馬鹿じゃない、二の足を踏まない事にする。
「はい、どうぞ」
「何で直ぐ切ろうとするんだ?」
「長電話、無駄話嫌い。それに慎治、お前は本当の理由を知っているだろ?・・・、話が長くなるなら直接、俺の所へ来い。お前の顔を見せろ。北極と南極位離れているわけでないだろ」
「例えがでかすぎ!」
分かりやすい例えだが飛躍させすぎだ。
「でっ、用件は」
「8月16日、俺達、全員で涼崎さんの見舞いに行く事になった」
涼崎の提案でそう言う事になったのを宏之と隼瀬から聞いた。藤宮も知っていると隼瀬が言っていた。知らないのは多分貴斗だけだろう。もしかすると彼女の口から伝わっているかもしれない。
「詩織から聞いた」
やはり藤宮から言われていたみたいだ。
「お前も来るだろ?」
答えは分かっていたが確認だけは取っておくことにした。
「行かない」
予想通りの反応である。人の行動が意図も簡単に予想できるのって結構楽しいことかもしれない。
「どうしてもか?」
「いやだね」
「分かった」
「分かってくれて何よりだ」
「テメエをぜぇっったいに連れて行くからな、覚悟して置けよ」
何故、俺はそんな事を口にしてしまったのか?俺自身その再開を望んでいなかったのに。どうしてかって?観察者としての内なる俺が訴えるんだ。良きも悪きも何かが起こるとな。
「ほぉ~、大した自信だな、慎治。俺と殺り合おうってのか?」
〝ウゥ~~~、ブルッ、ブルッ〟と恐怖と言う寒気を感じた。
ヤツの事を知っていたら喧嘩なんて挑めるもんじゃない。早々に辞退願いたい事だ。
「お前と本気で殺りあって勝てる奴なんて、そうそう、いねぇ~ヨッ!」
ヤツに本音をハッキリ言葉にして言ってやった。
「だが、われに策あり!」
そう言ってやると仕返しついでに俺の方から電話を切ってやった。で、その策とは・・・、藤宮を利用させてもらう事だ。
貴斗のヤツ、最近、彼女に頭が上がらないみたいだ。あくまでも横から二人のやり取りを見ての判断だ。確証はないが藤宮に協力をしてもらおう。
今一度、時間を確認した。今から彼女に電話をしたらバイトに遅刻しそうだった。
バイトから帰ってからにしよう。そう思ってバイトの準備をして家を出て行った。
今日のバイトも難無く無事に終わり、すでに自宅にいた。
今朝の電話の言葉どおり、藤宮の携帯に連絡を入れる事にした。
『トゥルルルルッ♪』
「ハイ、藤宮です。八神くんコンバンにございます」
彼女は一回のコールで俺に応答して来た。
尚且つ一言も発する前に彼女は電話の相手が俺だとわかっていたようだ。
「ウッス、藤宮、コンバンハ。よく俺だって分かったな?」
「ムッ、八神くん私の事を莫迦にしているのですか?」
「ハテぇ、はて、何の事で?」
「そのくらい出る前に携帯のディスプレイを拝見すればお分かりします」
「ハハッ、ソッカ、そうだよな。でもよぉ、よく一回のコールで出たな。貴斗それ知ったら妬くかもよ、アイツ」
彼女がどう言う反応を示すか試すような感じで俺はそう答えていた。
「たっ、たまたまです、携帯のメモリーを整理していたのですよ。それに、どうして貴斗が八神くんに妬くのですか?貴斗にその様な感情在ったら・・・、嬉しいですけど」
彼女の声は徐々に小さくなっていたが、何とか聞き取る事は出来た。
そんな事を口にして見たけど藤宮が言う通り確かに貴斗のヤツにそんな感情があるかは不明。
「それより、藤宮に頼みたい事があるんだが」
「ハイ、どのようなご用件でしょうか?」
彼女がそんな風に答えてくれてから俺は≪貴斗強制連行計画≫って奴を伝えた。
「ッテ感じで頼めるかな?」
「いつも八神くんには頼らせていただいていますので、ご承知いたしますわね。でも、私に出来るかしら?」
「大丈夫だロッ、なんたって藤宮は貴斗のツボ色々知ってそうだし、クククッ」
彼女をからかうように嫌な笑いを電話越しの藤宮に聞かせてやった。
「ヤッ、八神くん、へっ、変な事を言わないでクダサイッ!」
「何そんなに声を荒立てているんだ、藤宮。ククッ!」とまたも思わず苦笑してしまった。
「酷いよぉ~~~っ!」
「ごめん、ごめん。アッ、それと最後に予備の策も伝えておくぜ」
「ムゥぅ~~~っ、本当に謝罪しているのですか!八神くん」
「悪かったって、後でちゃんと面と向かって謝るからそれまで待っててくれよ」
「分かりました、それで予備の策とはどのような事でしょうか?」
「最後にアイツの事だ。証拠が無いと認めないだろう。だから何かに録音して置けば完璧だ!」
「何に録音すれば宜しいのかしら」
「藤宮の家に今からそれを持って行くから、そん時ついでに謝るよ」
「お・あ・や・ま・り・す・るのはつ・い・で・なのですね」
彼女は一字一句俺にそれを強調してきた。相当さっき言った言葉を根に持っているようだな。
「悪かったって、だからそんな嫌味ないい方しないでくれよ」
「分かっていただけました?それではお待ちしております」
藤宮、あんなにお淑やかそうな外見とは裏腹に彼女の相手をするのって実はものすごぉ~~~~~~くっ、大変なのかも?と電話の会話中に思ってしまった。
「それじゃ、今から行くからな」
そう彼女に伝え電話を切った。さてと、一体何に録音しようか?・・・・・・☆閃いた!確か母さん患者診断に声を録音するって言っていたな?何か小型の録音機でも使っているのだろう。
母さんはまだオフィスにいるだろうと思って彼女のオフィスに電話を掛けて見た。
運良く母さんに繋がりそれを持っているかどうか聞いて見た。
そしたら、最近、新しく買ったばかりの小型録音機があるんだけど使い方がイマイチ、判らないらしくて自宅に置いて有ると教えてくれた。
それの置いてある場所を母さんに聞き、それを手にとって見ていた。
「おっ、これかCDR(コンパクト・デジタル・レコーダー)だな。ハハッ、確かに母さんに使いこなすのは無理だろう」と独り言の様に呟く。
〈母さんなんでこんなもんを買ったんだ?メカ音痴なくせに〉
心の中で母さんを中傷してから、それの取り説を確認し、それを持って藤宮の家に急行した。彼女の家に着くと俺はそれの使い方をレクチャーし、取り説も渡して置いた。
藤宮、彼女は案外メカの扱いが上手いので心配は要らないだろう・・・。
演技なのか、どうか分からんけど、藤宮に顔を合わしたらやっぱり不機嫌そうにしていた。これからは彼女に変な嫌味を言う事を慎もう。そして、翌日、彼女から連絡があり無事に成功していた事を俺に伝えてくれた。
しかし、何だろう、俺は自分の計画が成功したのにも拘らず心に靄が掛かっている、そんな感じだ。でも今はそれが何なのか分からない。嫌な事が起きなければ良いが・・・・・・・・・・・・。
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