第十二話 小さな同窓会

~ 2004年5月9日、日曜日 ~


 高校三年の同窓会の会場、数人を残してみんなが去った場所にまだ俺はいた。

 場所は聖稜高校のおなじみの大樹がある高台の下、風呂敷を敷いてドンちゃん騒ぎ。

 許可はちゃんと学校の一番偉い人から貰っている。

 その人物から貴斗や宏之は出席するのかと聞かれたが分かっていた答えを教えると大変残念な顔をされたよ。

 二十歳を過ぎていたので何の後ろめたい気分なしにみんな酒をカッ喰らっていたな。

 幹事だったから後始末が大変だ。

 就職したやつ等、エスカレーター式に聖稜大学に進まず、別の大学に行ったやつ等、同大学別学部でたまにしか顔を見せないやつ等。

 三年前とか変わっちまったやつもいるし、そうでないやつ等もいた。まだそんな歳食ってないけど、みんな楽しそうに昔の思い出や近状なんかを話していたな。

 その同窓会に出席していない男二人、貴斗と宏之だ。

 それ以外は全員、隼瀬もちゃんと出席していた。

 宏之が出席しなかった理由はいまさらみんなに合わせる顔が無いって事、奴なりにクラスの連中に高校三年の半ばからいきなり登校拒否、だもんな迷惑かけたって思っているようだ。

 クラスの連中誰もそんな事を思っていやしないのにな。

 内のクラスは変わり者が結構多かったけど、みんな仲がよかった。

 そうだな、確かに宏之がいなかったせいでクラスはどうしてか重い雰囲気が漂っていたからな。

 貴斗の方は場を盛り上げるどころか、場を盛り下げてしまいそうだからだそうだ。

 まあ、ヤツの場合は他にも理由がありそうだがどんな事かは察しがつく。でも、貴斗と同じクラスじゃなかった藤宮をつれてけば大うけ間違いなしだと思ったんだが、流石にそういう訳には行かなかった。

 クラスの同窓会だからな。

 同窓会を始めたのは8日の土曜日だったけど、場所が場所だけに時間は進み、終わりを向かえた頃は次の日になってしまっていた。

 酔いつぶれた数人のダチが風呂敷の上で寝ちまっている。

 その寝ちまっている中に隼瀬も交ざっていた。

 さてさて、こいつらを起こし帰さん事には完全にお開きには出来ない。叩き起こすか?

「おい、沖田ッ、それに尾張も高科ッ、日向、宇都宮、志島に瀬能、そして、隼瀬!さっさとおきんかいこのボケどもぉーーーっ、幹事のこの俺様が帰れねぇ~~~じゃねぇ~かぁーーーっ!!」

 持っていたプラスティック・メガホンでそいつらの頭を『バコ、バコ、パコンッ』って感じで殴ってやった。

[高科]「いってえぇなぁ、八神、もう少し寝かせロッ」

[宇都宮]「ふんぅうん?うにゅ?はら、はら?」

[日向]「もォ~~~、朝かぁ、何だっ、まだ夜ジャン、お休み」

[沖田]「僕の眠りを邪魔するな。テメぇーーーっ、慎治、ぶった切るぞ!」

[綾]「八神様・・・、もう少し眠らせてくださいな」

[尾張]「フワァハァ~~~、もうこんな時間か?それじゃ終わりにして僕は帰るよ」

[志島]「いたぁ~~~、やがみくんがぶったぁ~~~、うぅうぅ」

「・・・・・・・・・・・」←100%酔いつぶれ

「テメぇーーーーーーっ等、いい加減にしろっ!風邪、引くぞ」

 再び、そう怒声をあげて言って聞かせたがそいつらは耳をふさいで眠ってしまう。

 結局、直ぐに帰ったのは尾張だけだった。

 まったく始末に置けんやつ等だ。飲み会の要注意人物達が誰であるか理解した。

 次回の同窓会では気に留めておこう。

 残り五人を帰しきったとき既に午前4時を過ぎていた。だが、いまだに粘るやつ等二人、瀬能と隼瀬。

 しょうがなく、さっきまで他のみんなが使っていた毛布全部、二人にかけてやった。

 そういえば、二人とも同じ職場だと初めて知ったんだよな。

 今日だって仕事があるだろうにホントのこの二人はぐっすりと眠っていやがる。

 再び、時計を確認。そろそろ夜明けの時間だ・・・。

 若しかして、一睡も出来ないまま朝を迎えてしまうのだろうか?

 アぁーーーっ、こうなったら夜明けまで待ってやる。


            *   *   *


 そして、本当に一睡も出来ず夜が明けてしまった。

 朝陽が射し始めるとその二人はまるで鶏の如く、起き上がる。

「ふわぁ~~~、???げっ、もしかしてずっとアタシここで寝てたの?」

 起きて周りを見た隼瀬は驚いた表情を作り尋ねてきた。 だから、それに声を出さないで呆れ顔で答えてやる。

「もしかして、ずっとアタシが起きるまで待っていてくれたの」

 呆れた顔のまま頷いてやる。彼女は俺の頷きに苦笑して返してきた。

「フゥ~~~~んっ、・・・、八神様、おはよう御座いますの」

 〝~の〟語尾のこの娘さん、己のおかれている立場が分かっていないのか?瀬能は正座をして、丁寧にお辞儀をしながら挨拶してきやがった。まあそうだろう、この人はクラスの天然ボケキャラだったからな。

「ハイ、おはよう御座ます、お二人さん。瀬能さんも隼瀬も仕事あるんだろ?」

 嫌味たっぷりに朝の挨拶を返してやった。だが、しかし、その二人は素で返してきやがった。

「大丈夫、今日は二人してオフ、取ってあるわ」

「ハイッ、大丈夫ですの」

「だったら、後片付け、手伝え」

「しょうがないわね」

「はいですの」

 その二人を使役し、盛大に散らかってしまったうちの学校の名所を掃除して行く。

 掃除をしながら隼瀬は来なかった宏之や貴斗の事を不満げな口調で話していた。

 飲み会が始まったときも何人かが二人の事を気にかけてくれたから、

 やつ等二人のダチである俺はすごく嬉しかった。

 次回は二人とも連れて来いっていってくれた奴もいるから尚更だったな。

 後片付けも終わり、瀬能と別れた後、隼瀬と一緒に帰る事にした。

 その帰りの話題で本当に親しい仲間だけど同窓会をしたい、って隼瀬は口にしていた。

 そんな彼女の願を叶えてやりたかった。

 それは非常に難しいことだけど、それを実行するために俺は動き出す。

~ 2004年5月29日、土曜日 ~

 計画を発案して実行するまでに約三週間、ついにその日が来た。

 現在、俺を含めて七人の人物が有料テニスコートに来ていた。

 一人以外、みんな楽しそうな顔をしている。

「ミスター・フジワァ~~~ラァ、ユーはどうしてスマイルしないですか?」

 クライフのやつ、もっとまともな日本語、喋れる様になっていたはずなのに態とらしい日本語を不機嫌面のヤツにぶつけていた。

「そうですよ、藤原君、せっかくの楽しい場を崩す積りですか?」

 色々と考えて、集めたメンバーはクライフ、神無月焔先輩、貴斗、宏之、俺に、隼瀬と藤宮。

 本当は涼崎妹も呼んでやりたかったんだけどな。そうしちまうともっと場が収集つかなそうだと判断したから今回はお預けさせて貰った。

 どうしてかって?ただでさえ貴斗と隼瀬の関係がギクシャクしていんのに翠ちゃんが入ったらもっと荒れそうだと思ったからだ。

 今の貴斗は隼瀬がいると良い気分しないだろうが、逆に隼瀬の方はそうでないのを知っている。だから、彼女の為にこういう場を用意した訳。

 クライフを連れてきた理由は宏之の奴がずっと前に会ってみたいと言っていたから、その願をかなえてやった。

 すっかり意気投合しているようだな。

 神無月先輩は何気に場を盛り上げるのが得意だということはこれまでの付き合いで分かっていた。だから、隼瀬と貴斗のギクシャクした関係も少しくらいは収まるかもと思ってお呼びした。

 藤宮と隼瀬は既に楽しくおしゃべりをしているようだ。

 貴斗は先輩に隼瀬のことで諭されている感じ。

 みんなを集めたのがテニス場だという理由は体を動かすと精神的負担が軽減するという説があるからだ。

 大学の体育の授業以外スポーツする事ないだろうヤツとバイトでしか体を動かさない奴、それと仕事ばかりでしたい事の出来ないスポーツ好きの彼女のためを思ってここへ呼んだ・・・。しかし、他にも理由はある。それは後ほど分かるはずさ。

「ソンじゃぁ~~~、試合始めますか?さっきも言ったように一番のやつがビリのやつに罰ゲームを命令できるって事でいいなぁーーーっ!」

『オォーーーっ』

 捻くれもの約一名以外、みんな俺の言葉に合わせてくれた。そして、その捻くれものは鼻で笑って答えてはくれていた。

 体力技術、どちらも必要な5セット総当り試合。最も多くセットを取った者が勝者その逆が敗者。

 始めの対戦相手は番号くじで決め、後は空いた選手と交代して続けるって方式。

 俺の最初の相手は藤宮だった。

「八神君、手加減をしてくださっているお積りなのですか?」

 彼女はにこやかな表情でそう言ってくる。

 確かに始めの内はそうしている積りだった。だが、しかし、そんなことは無用だった。

 藤宮を甘く見ていた。彼女のスポーツ万能ぶりは廃れていなかった。既に3セットも取られてしまった。

 このままでは計画が・・・。もう負けるわけには行かない。だから、本気を出して残り2セットは戴かせてもらった。

 それから、宏之と貴斗は完膚なきまでに叩きのめしてやった。

 宏之、此奴はスポーツ万能で何をやらせても普通以上にこなす。

 テニスだってそつなくこなすのを知っていた。だが、所詮は練習を積んでいる奴じゃないから負けはしなかった。

 貴斗・・・ヤツは面白いくらい下手糞だった。

 返ってくるボールはすべてホームラン。

 ヤツ、授業の体育では卓越した運動能力ぶりを発揮しているんだが。

 テニスがこんなにも下手だとは思っても見なかった。

 新しい発見ってヤツかな。

 次の対戦相手は隼瀬だった。

 彼女も藤宮と同じ、それ以上に運動能力が高い。

 あの計画を実行するためにも最初から本気で当たらしてもらった。

「なぁあにぃ~~、しおりンには手加減して、アタシにはしてくれない積り?そんなのってずるいわよっ、エコヒイキっ!」

「うっせぇーーーっ、ぜってぇ負けられない理由があんだっ!」

 試合の最中そんな言葉を隼瀬と交わした。

 何度かセットを取られそうになったがそこは腕でカバーして5セットちゃんと戴いた。

 神無月先輩、テニスサークルに所属していないのにその腕は俺もクライフも認めるものだった。

 2セット取られてしまったが何とか3セットは死守した。

 最後はあらゆるライバルであるクライフだった・・・。

〈クゥッ、何て際どい所に打ってきやがる。しかし、打ち返さないわけには行かない〉

 俺のとった行動は、そして、その結果は?

 クライフのダブルハンドで打ってきたボールを片手で打ち返すなんて、生易しいことじゃないのを知っている。だから、無理にでも、両手で打ち返せる場所まで移動して打ち返すしかない。

 跳躍して倒れこむような体勢で、打ち返す・・・、運よく当たり所が良かったみたいで、ネット縁に当たり、球威が失われたそれはクライフの陣地に雫の様に静かに落ちた。

 どうにか、危機は回避でき、デュースに持ち込んだ。そして・・・

「Oっh!Thanks Goーーーーーーーdっ!」

「うをぉーーーっ、何で今日に限って負けちまうんだぁーーーーーーっ!」

「ミスター・ヤガミ、ドウしてしそう言うのですか?いつものユーじゃありません」

「いやぁ~~~、わるい悪い、クライフ、ちょっとした計画があったからな」

 クライフと握手しながらそう会話を交えていると既に集計してくれたのか?

 神無月先輩が結果表を持ってみんなを集めてきた。で、先輩の口からそれが知らされる。

「えぇ~~~、それでは発表いたします。勝ち数の高い順から」

「35セット中22、八神慎治君」

「35セット中21、クライフ・フォード君」

「35セット中18、藤宮詩織さん」

「35セット中15、隼瀬香澄さんと発表者のこの私」

「35セット中13、柏木宏之君」

「35セット中0・・・、藤原貴斗君」

「よって、勝者は八神君。そして、敗者はあなた藤原君ですよ」

「よっしゃぁーーーっ、何とか一番になれた!フッフッフ、バッつゲームぅ~~~っ」

 藤宮と隼瀬の成績が良いのは神無月先輩とクライフが華を持たせてやったからだろう事は予想できる・・・。そして、1セットも取れなかったそんな哀れなヤツにはとても美味しい罰ゲームをくれてやろう。

 先月の貴斗の話で余りにも藤宮が不憫でならないと思ってしまった。

 そんな彼女に記憶に残るようなプレゼントを捧げよう。

「なぁ~~~っ、貴斗、俺勝者、オマエは敗者。罰ゲームって言っても簡単な事だから安心しろ」

「・・・・・・何をすれば良い」

 不機嫌面で聞き返してくるヤツに鼻高々で答えてやる。

「俺たちの前で藤宮と・・・ディープなKissをしろ」

「もっ、もォ~~~、やっ、八神君ッたらへぇへっッ、変な事を申さないでください」

「ばばババアばバアバばあああばっそんっ、そっ、そんなことできるかっ!」

 ヤツは相当うろたえているようだ。藤宮は・・・、恥ずかしそうな表情をしている様だが目が輝いている・・・、嬉しそうだ。

「ホラッ、貴斗、なに照れてんだ、そのくらい出来ないのか?」

「貴斗、負けたんだから慎治の言う事聞きなさい。しおりンがまっているわよ」

 宏之も隼瀬も嬉しそうな顔しながら貴斗を見て面白がっている。

「ミスター・フジワラ。ユー、オトコらしくないです。日本男児、サムライ・スピリッツ見せてくださぁ~い」

「藤原君、観念して勝者の言葉を受け入れなさい。民法に引っ掛かりますよ。さぁ~~~っ!」

 クライフも神無月先輩も貴斗に嗾けてくれる。

「タカト・・・、私と・・・するのそれほどお嫌ですか?」

 藤宮得意の涙目演技。もう少しでヤツも落ちるだろう。

「・・・、ワッ、わかった・・・、みんなあっち向いてろっ」

「駄目に決まってるだろ!俺はみんなの前でって言ったんだ」

「しぅっ、ししし、しおり、めを・・・」

「ハイッ」

「俺がやめぇ~~~って言うまで続けろよな」

 貴斗は俺の言葉を受け、ゆっくりと藤宮の唇にヤツのそれを近づけていった。

 そんなヤツを見ていると何だかすっごく楽しい・・・・・・。

 精神的な虐めをしているわけじゃないからな。これは藤宮とヤツの事を思って計画したことだ。その二人の熱烈?なキスを約一分、他の皆様方で拝ませてもらっていた。

 それが終わった後の藤宮の表情って言ったら極上の笑みだった。

 ヤツの方はというとタオルを顔に押し当てて恥ずかしさを隠している様だった。

 たっぷり汗をかいて、面白い結末を迎えた後は宏之と隼瀬がずっと前望んでいた貴斗を含めた飲み会に向かう。

 食い、飲みが始まってからその二人の顔を眺めていたら、この前の四人だけの飲み会の時より嬉しそうで、楽しそうだった。

 クライフは日本酒が好きらしくがんがん飲み始め、藤宮もそれに釣られ飲み始める。

 貴斗がそれを止めるとお思いの方、間違いです。なぜなら、ヤツは飲むと宏之と一緒で黙ってしまうからな。

 藤宮がヤツに絡もうが無視しまくり。

「うぅうぅ、ふぅううぅんーーーっ、ヤガミクゥ~~~ン、タカトがぜんぜん、お相手してくれまぁせぇ~~~、何とか言ってあげえくださいましぃ」

「無理だ、諦めろ・・・。藤宮だって知っているだろ?黙り上戸だって」

「たぁかぁとぉ~~~、やあみぃくんがいじめまぁす」

 藤宮はそう言って貴斗に甘えるがヤツはそれを無視してゆっくりとコップに入っている酒を飲んでいる。

 彼女がヤツの頬をつねっても髪を引っ張っても相手にしていない。面白い光景だ。

 神無月先輩はというとビールを大ジョッキでちびちびと飲みながらその二人の遣り取りを楽しそうに眺めていた。

 今回は俺が場を仕切ろうと思っていたから余り飲まない様にと思っていたのだが宏之も、貴斗も、クライフも、そして、藤宮までもコップが空になるとすぐに注ぎ、それを呑むように強く要求してくる。

 クライフのそれを断ろうものなら日本語だか、英語だか分からない言葉で喚きまくり、奴のそれを避け様とすれば、恥ずかしい秘密ばらすぞと脅され、ヤツの場合は飲まなかったら・・・、怖い。藤宮は大声で泣きますよと拗ねまくる始末。

 一番先に潰されてしまいそうだ。

 隼瀬、今回は飲むペースを遅くしているのかまだ酔い寝しないでニコニコ顔をしながら俺たちの酒の酌み交わしバトルを見ている様だった。

 そんな彼女の顔が見る事が出来て、とても嬉しかった。

 一番、最初に酔いつぶれたのはクライフだった。

 それに続くように俺と宏之が同時に倒れてしまい後の事は分からずじまい。そして、楽しい飲み会の時間は俺の知らない所で過ぎて行く。

 後日、先輩に聞いたところ、宏之や俺のあと貴斗も撃沈し、余り飲んで居なかった隼瀬と相当飲んでいた藤宮が起きていたそうだ。

 恐るべし彼女。

 神無月先輩は藤宮が勧める酒をどうかわしたのだろうか?すべて受け流し適量しか飲まなかったそうだ。

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