第25話
ティンクルイーターとの戦いの後に残されたのは、焦げたエクゾスイレイヴと大地、それにいくらかの人かティンクルイーターの幼体か分からない肉片だけだった。
討伐は失敗し、残された人間たちは途方に暮れながらも怪我人の手当やエクゾスレイヴの応急処置などの多忙によって現実逃避していた。
具体的な被害による残存戦力はエクステンドエグゾ1機、ヘビーエグゾ3機、ミドルエグゾ12機、歩兵と作業員が33名と半数近くを損失していた。
特にエグゾスレイヴとグーマ族は多くの犠牲が出ており、痛々しいものだった。
また音響装置が破壊され、実質作戦は中止せざる得ない状況でもある。
コウジたちはひとまず部隊を立て直し、古代施設へと戻っていた。
「ユニ、再度の討伐作戦は可能ですか?」
「……無理じゃろ。そもそも戦力は半壊した地上部隊と2割弱の艦隊しかないのじゃ。それに音響装置無しでどうやって奴を地上におびき出すのかえ?」
「音響装置は再建できないんですか?」
「言うたじゃろ。あれを作るのは1か月かかると。しかも材料となるアークマターが足りぬ。到底無理な話じゃよ」
アークマター、それはかなりの希少鉱物であり、エグゾスレイヴや精霊器官製造に不可欠な物質だ。
古くは全ての始まりである惑星テラリにて僅かに算出され、宇宙開拓はそのアークマターを求めて行われたといっても過言ではないほどだ。
「この星のアークマターの採掘量は?」
「今も採掘機が稼動しておるが、ライトエグゾ1台分にも満たぬぞ。量だけではなく、時間も、労力も足りぬのじゃ。どだい期待するのは無理じゃぞ」
この星、アテームを誰よりもよく知るユニなのだからこそ、言葉にうそ偽りはないのだろう。
「打つ手はもう、ないのですか。いや、必ずあるはずです」
コウジたちが頭を擦りより悩むも、ユニだけはその輪にいなかった。
「ユニ、どうしたのですか?」
「のう、コウジ。お主らはずいぶん良くしてくれたとは思わぬか?」
「何を今更、アナタにはずいぶん苦労させられましたよ」
「そこで、のう。コウジたちだけでも他の星系に送ってもよいと思っておるのじゃ」
「!?」
当初はティンクルイーターからアテームを救った暁に送るという話だったが、ユニは言葉を翻(ひるがえ)した。
「何故です? アナタらしくもない」
「あたいも最初はアテームが存続さえすれば何を犠牲にしてもいいと思ったのじゃ。それが前任者の、ココロ博士の想いじゃったからな。しかし実際人手を使ってもうまくいかぬ。しかもそれが不満どころか充足感を感じるから始末が悪いのう」
ユニはそっぽを向いたまま、言葉を告げた。
「人の言葉では信頼とか親密とかいうのかえ? 担保無しの充実感、それがとても愛おしく感じるのじゃ。元々は合理と合意の行動じゃったのに、協力するうちに手段が目的に変わったようなものじゃ」
ユニがそこまで言うなら、コウジたちにとっては渡りに舟だ。
だが、それでいいのだろうか。
「待ってください。もしも私たちがこの星を出て行ったらユニはどうするのですか?」
「分かっているじゃろ? あたいの本体はこの古代施設に不動のものじゃ。動きも逃げもせぬよ。星の管理、それがあたいの仕事であり本懐であるのじゃからな」
「!? それじゃあ意味がないじゃないですか!」
コウジの強い反論に、ユニは驚いたような顔をした。
「私は与えられた仕事を死ぬまで全うするつもりです。それが私の信念であり、誇りであり、生きる意味なのです」
「何を言うておるのじゃ。たかが会って数ヶ月のAIごときに命を張るつもりか? この大馬鹿者が!」
「馬鹿も阿呆も聞き飽きました。私がそうすると決めた以上、絶対退きません。そもそも、アナタだって同じじゃないですか!」
「――っ!」
星を守るためにここに残るという意志の源はユニもコウジも同じだった。
コウジを突き動かしているのは一見ユニとの約束という曖昧なものだ。ただしユニが星を守ろうとするのもプログラム以上に前任者との約束が大きい。だからこそ、人間くさいユニの行動理念だからコウジは退く気になれなかった。
「馬鹿さ加減なら人間も負けていないということを教えてあげます。客観的合理性? 損得勘定? そんなものくそくらえです。私はただそうしたい。そのためならこんな安上がりの命、いくらでも勝負に使いましょう」
コウジの迫力に、さすがのユニも気圧される。
「……まったく、理解不能な人間じゃな」
ユニはあきれたようにつぶやくと、ジュエルたちの方も見た。
「だ、そうじゃ。船長としてはどう見る?」
コウジはともかく、ジュエルは船員の命を預かる身だ。そんな無謀に付き合う必要はない。
「確かに、私たちは逃げた方が良さそうだな」
ジュエルは笑って頷いた。
「しかし惑星の崩壊にはまだ時間があるのだろう? そのくらいの時間は付き合おう」
「!? ここにも大馬鹿者がいるようじゃな」
ジュエルの答えに、他の船員たちも、そしてグーマ族たちも賛同した。
「グーマ族は星と運命を共にする。それが長老と一族の意思だ」
ハサンがグーマ族を代表し、そう告げた。
「どいつもこいつも、本当に救いようのない……」
ユニは泣きこそしないものの、顔を伏せた。けれども、今は感動に浸っている暇はない。
「ですがどうしましょうか。他の方法でティンクルイーターを地上へ引きずり出さねば勝ち目はありませんよ」
「その点については心当たりがある」
再び議論が巻き戻ったところで、ジュエルがある発案を行った。
「実はスケイルで運んでいた品はアークマターなのだ。それを使って音響装置を作り直せないだろうか?」
「え? あるんですか」
ジュエルの言葉に、その場にいたほとんど全員が驚くのだった。
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