第23話

 アテームの古代施設ではティンクルイーター討伐のための準備が着々と進んでいた。


「これが超音波兵器ですか。思ったよりも大きいですね」


 コウジの目の前には組み立てられたグレーの円筒形が複数の足で支えられている。一番上には巨大なアンテナがあり、そこが超音波の出力部分らしい。


「ティンクルイーターが嫌がる出力の音波は人間には聴き取れぬ。鼓膜が破れる心配もないからそこは安心するのじゃよ」


「鼓膜破壊兵器なんて怖すぎますよ。軍事兵器ですか」


 冗談を言い合う中、グーマ族も新たな準備を整えていた。


「コウジ、グーマ族の戦士とエグゾスレイヴはすべて揃えた」


 ハサンが言うように、洞窟の外にはキマリアやクロノといったミドルエグゾの他、ヘビーエグゾも見られる。


 ヘビーエグゾは『クワガッタン』と呼ばれる黒鉄(くろがね)の多脚エグゾが大半で、1機だけ『スカラベ』という2足歩行の黄色い機体もあった。


 クワガッタンは多脚で両肩のキャノンを支え、両腕は20ミリのバルカン砲だ。主に後方援護を担当する火力重視型の機体といえた。


 またスカラベは遠距離攻撃こそ拳銃タイプと備え付けの機銃しかないものの、背中に大型のヒートソードを背負っており、しかもその剣は可変式のギミックとなっている。装甲も流線型で、スピード重視の機体だ。


 更にその後方にはヘビ―エグゾを圧倒的にしのぐ巨大なエグゾスレイヴが待ち構えていた。


「まさかあれは……エクステンドエグゾですか!?」


 エクステンドエグゾ、それは全長約40メートル、重量270トン、野戦砲や戦車砲の大口径砲を複数装備できるほどの巨漢エグゾスレイヴの総称だ。


 運ぶのもドロップシップ1台に1機しか載せられぬほどの大重量で、大量運用は難しいと言われている。


 しかしその大火力は国家間戦争にも用いられるほどの最終兵器であり、存在するだけで絶対的な優位を保持すると言われる戦略兵器だ。


 おまけに付属品さえあれば単体での大気圏離脱や突入、ワープ航法なども可能な何でもずくめの機体である。


 コウジの眼前にはそんなロマンのおもちゃ箱みたいな超兵器が実在し、稼働して存在していた。


「つい最近発掘した。今回の戦いに使えそうだ。乗るか? コウジ」


「いいんですか!?」


「コウジなら乗る資格も度量もある。好きなだけ使え」


 コウジはハサンに言われて、喜び勇んでエクステンドエグゾに乗り込む。


 エレベーター式のコクピットをゆっくりと上がり、ひとり乗りなのに大講堂のようなコクピットでエルコをインストールし、エクステンドエグゾを起動した。


「これはすごい!」


 エクステンドエグゾは制御をコンパクトにできない代わりに拡張型のインターフェイスを使い、まるで指が数十倍に増やしたような操作ができる。


 もちろん実際はエルコのようなAIによって単純化されているけれども、操縦は圧巻の一言だ。


 コウジはオルガンピアノを掻き鳴らす気持ちで、エクステンドエグゾの操作感覚を掴んでいった。


「ミドルエグゾ31機、ヘビーエグゾ8機、エクステンドエグゾ1機、歩兵53名、1個艦隊、それが今回の討伐部隊の戦力じゃな」


 エクステンドエグゾに搭乗した興奮冷めやまぬ中、コウジと他の者たちは改めて作戦内容を練り始めた。


「まずは音響兵器を火山の麓に設置、これは絶対死守せねばならぬ。でなくては奴は巣に戻ってしまうからな」


「ならば音響兵器を頂点にして扇状に展開すべきだな。艦隊は宇宙空間から地上部隊が火線に入らないようにクロスさせ、絨毯爆撃。エクステンドエグゾはティンクルイーターを抑える要になるぞ」


 ジュエルはコウジに目で合図し、託すように頷く。


「作戦はシンプル、先に言った陣営でありったけの火力を叩きこむ。大事なので何度も言うが、音響兵器が破壊されればおそらく敵は逃げ出す。期間的にも破壊されれば二度目はないぞ」


 ジュエルの念押しに、全員が肯定する。この惑星の生存圏はおそらく残り1か月、すでに自転や地場が乱されて異常気象や地震が起こり始め、肌でも終末が訪れ始めているのが分かる。


 だからこそ、ティンクルイーター討伐作戦は絶対に失敗できない。失敗すれば少なくともユニは一巻の終わりなのだからだ。


「そう考えると私たちはユニの生存のために戦っているようなものですね」


 コウジがはたと気づきそう述べると、ユニはくすぐったいような顔をした。


「言われて見ると自分の矮小さを感じるのう。所詮AIは人間の手やアクセスできる物体無しに手足も出ぬ。言うなれば人間の赤ちゃんじゃな」


「赤子にしては些(いささ)かじゃじゃ馬過ぎますけどね」


「言うのう。あたいの生存期間に比べればお主などおしめも取れぬ赤ん坊同然なのにのう」


「世話された覚えはありませんが?」


「なら明日からは古代施設の全生命維持装置をオフにしておこうかのう」


「……前言撤回します」


 周りの者たちはそんなコウジとユニのやり取りを見て、笑った。


「決行は明日。皆、準備を怠らないようにな」


 ジュエルの号令の元、コウジたちは悔いの残らぬよう最終準備と確認を行うのだった。

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