第22話
「失礼します」
タマヨを尋問したコウジは、その足でユニと共にジュエルの個室へと向かった。
ノックの後、中から「入りたまえ」と返事が届き、2人は入室した。
「2人ともどうしたんだ? タマヨの尋問で何か情報があったのか? とりあえず座りたまえ、何か飲み物でもどうだ?」
ジュエルは快活な表情でコウジたちを迎え入れると、2人のために飲み物を出そうとした。
「私はコーヒーで」
「あたいはオレンジジュースじゃな」
「飲めるんですか?」
「ふふふっ、あたいのような高度な義体には食物を消化し消費する機能くらいあるでの。流石じゃろ」
「なのに好みは子供なんですね」
「くっくっく。後で覚えているのじゃぞ。就寝中にライトを点灯させたり毎分トイレを流して眠りを邪魔してやるからのう」
コウジは報復の影におびえつつ、ジュエルが出した飲み物を頂き、本題に入った。
「タマヨに先日の襲撃ができた理由を聞きました。どうやら今回の仕事、内通者がいたそうです」
「内通者だと?」
コウジはあえて必要以上の情報を伏せ、ジュエルに伝える。全部を話せばアーバン家から裏切られたと狼狽しかねないため、その予防線だ。
「内通者については分かってません。ただ今回の輸送はモーダンからの伝手です。彼の方がよく知っているんでは?」
「……モーダンを疑うのか?」
「そこまでは……、いえ正直疑っています」
コウジの素直な問いに対し、ジュエルは「そうだろうな」と頷いた。
「話してはいなかったが、モーダンとはアーバン家にいた頃からの知り合いなのだよ」
「!? そうなのですか。では旧知の間柄と?」
「そうなるな。モーダンは使用人としてアーバン家に仕え、年下の私の世話もしてくれた。私がアーバン家から抜けた後は暇を貰ったと追いかけてくれるほどの忠義者だ。ああ見えてもな」
ジュエルは不可思議な思いをしているコウジへ、そう補足した。
「裏切りはないと?」
「少なくとも私が知る限りではな。だがモーダン自身が誰かに騙された可能性もある。ここは結論を急ぐべきではないな」
「分かりました。それで、これからどうします?」
「本人から直接聞こう。こそこそ探りを入れるよりも断然効率的だ。ユニ、連絡を頼めるか」
ジュエルの頼みに、ユニは「あい分かったのじゃ」とばかりに伝言を送った。
そうしてコウジたちがコーヒーや紅茶、オレンジジュースを味わっている間に個室の扉が叩かれた。
「モーダンであります」
「入れ、コウジやユニもいるぞ」
モーダンは扉を開けると、コウジと目が合い不審げな顔つきをする。
しかしすぐに顔を無心に戻すと、自分も促された席に座った。
「さて、伝言ではどこまで知っている?」
「タマヨの情報源についての話がしたいと、もしや今回の襲撃に関連が?」
「そうだ。どうやら情報がどこからか漏れていてな。そこで仕事を請け負った経緯についてモーダンから話をして欲しいのだ」
「……分かりました」
モーダンは深刻そうな顔をすると、話し始めた。
「実はジュエル船長が気を悪くすると考えて黙っていましたが、今回の仕事はアーバン家からのお墨付きなのであります」
「アーバン家から?」
ジュエルはその言葉を聞くと、少し複雑な表情をした。
「お主はアーバン家を尊敬していたと聞いていたが、仲が悪いのかえ?」
「……私が婚姻をせず独り立ちしたことで父や兄弟とだいぶ揉めたのだ。てっきり仕事については邪魔こそすれど援助してくるとは思っていなかった」
「ふーむ。ではもしやアーバン家が仕事を依頼して傭兵海賊に始末をさせようとしたのでは?」
コウジはユニがはっきりと述べてしまったのを止められず、しまったという顔をした。
「……可能性はある。特に父は良き縁談を断ったことにお怒りだった。だが命を奪うほど憎まれていたとは、考えたくないな」
「それはすまぬな。無粋な質問じゃった」
そう考えるとアーバン家の次男には明確な殺意があったワケだ。やはり直接情報の出所を話さなくて正解だったと、コウジは胸をなでおろした。
「アーバン家だけとは限らん。アーバン家を憎む者や恨みがある者も多少はいる。情報の出所もそうした反アーバン家の可能性もあるからな」
ユニの意見に対し、反論したのはモーダンだ。
「そのアテは?」
「大なら国家の重鎮、小なら一介の市民と幅広くいます。惑星外のデータベースにアクセスできれば調べる余地もありますが……」
救難信号が届けばこの星の脱出にユニの力を借りる必要はない。ならばその方法は無理という話だ。
「結局情報の出所は分からずじまいか」
コウジたちは腕を組んでいい策を考えようとするも、ここが限界のようだ。
「どちらにせよ、この星を出た後に考える話じゃろ? それはまた今度考えるとしよう」
「そうですね」
4人は考えあぐねた結果、問題を先送りにする決定を下した。
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