第20話
アテームの古代施設での戦いの結果、被害と収穫は以下のようになる。
まず洞窟の若干の倒壊はすぐに除去作業に入り、人の出入りだけはできるようになった。ただし重機やエグゾスレイヴを通すにはもう数日を要すほどの瓦礫の山のため、工事は難航した。
更に今回の戦いでクリムゲンを含むヘビーエグゾ2機、半壊したミドルエグゾ2機、ほぼ全損のミドルエグゾ5機を接収した。
こちらの被害はミドルエグゾ8機の軽重度の被害、戦死者は3人、怪我をした者は多数にのぼった。
その中でも重傷者のひとりは、左腕を自ら引きちぎった人物だった。
「……ここは」
コウジは目覚めると、身体を起こそうとする。しかし左腕の激痛と倦怠感により再びベッドに身を戻した。
「ようやっと目覚めたようじゃの」
コウジが視線を左に移すと、そこにはユニが椅子に座っていた。
「戦いはどうなったんです?」
「自分の心配よりもまずそれを聞くのかえ? 戦いは勝ったのじゃよ。多少損害は出ているがのう」
ユニはそう語り、コウジが失神して以後の経緯を話す。
敵の海賊傭兵団の団長、タマヨは拘束され、他の残り少ない団員たちも大人しく降伏したという話。古代施設にダメージはなく、他の大破したエグゾスレイヴも大方直せるという話。
だが減った人員は補充する必要がある、というユニらしい打算的な会話内容だった。
「わざわざそれを私に説明するために待っていたんですか?」
「それもあるがのう。なんというか。今回色々頑張ったコウジにはねぎらいのひとつも必要だと思ったのじゃよ」
「ねぎらい、ですか。以前よりも殊勝な心構えですね」
コウジの茶化すような言葉に対し、ユニは自分でも自分の好意に不思議がり、腕を組んだ。
「必要性、必要性かのう? 信頼の維持や関係の修復、事前確認や事後確認のため……というのも不適切かえ?」
「私に質問しないでください。高度なAIならそれくらい結論づけてくださいよ」
「ふーむ?」
コウジは質問の回答を拒絶していると、再び左腕がうずいた。
「いたたた」
「痛覚かえ? それとも幻肢痛というやつかのう。ところでその左腕、どうするつもりじゃ?」
「どうするとは?」
「あたいの技術なら再接合も義手も可能じゃぞ。ただし再接合したとしても後遺症によるしびれや麻痺が残るかもしれぬ。義手ならリハビリとメンテナンスの手間以外は前よりも断然高性能で――」
「なら義手でお願いします」
「即断即決じゃのう!? いいのかえ? 自分の身体じゃぞ」
「問題ありません。傷つけたのも腕を捨てたのも自分の決断です。身体に不自由するくらいならより遂行能力のある身体にするのが当たり前でしょう」
「少なくとも自然主義というワケじゃないようじゃの。分かった、ならば後々手術もするからのう。手術の怖さでべそをかかぬようにな」
その後コウジは手術室に移され、天上から昆虫の節足のように生えた遠隔操作用のアームによって手術が行われた。
執刀医はなんとユニの遠隔手術でいささか不安になるも、手術は瞬く間に終わり次は義手が準備された。
義手はたった数日で作成され、すぐに装着される。けれどもそれで治療完了ではない。
コウジは義手を動かすためのリハビリをユニから受け、他の者が戦闘後の処理やティンクルイーター討伐の準備をする傍らで復帰に備えた。
ユニによれば完全に動かすには少なくとも1か月かかると言われるも、コウジや皆にはそんな時間はない。
なのでコウジは日夜動かすための工夫と訓練をこなし、1週間後には左腕だけでコンソールを自由に叩けるほどになっていた。
「想像以上に回復力が早いのう。これなら明日には現場復帰できるじゃろうに」
「やっとですか。だいぶ時間をロスしてしまいましたね。明日は色々とやりたいことと試したいことがたくさんあります」
「試したいことはともかく、やりたいこととは何じゃ?」
「いくつかありますが、まずは聴き取り調査です」
コウジはその次の日、休みを挽回するように動き出す。
早朝から自分の機体のメンテナンスや義手を含めた運動をこなし、皆が起きだすのを待った。
それから皆が目覚めた頃、コウジはある人物を尋問室に招待した。
「もう腕を換装したようだね」
「ええ、その件はどうも」
尋問室にはコウジとユニ、それに手錠を繋いだタマヨが呼び出されていた。
「それで、私に訊きたいことでもあるのかい?」
「もちろん、そのための尋問です」
コウジは机を挟み、タマヨの目を真剣に見つめた。
「どうやって私たちの船、スケイルの航路が分かったか、についてです」
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