第18話
「<妨害煙幕>!」
洞窟内の攻防でまずはコウジのマテバから白い煙幕が排出される。
マテバの頭部から這い出るように流れる煙は洞窟内を辿り、次第に充満して視界を遮り始めた。
<妨害煙幕>には視界だけではなく、赤外線、サーモセンサーをジャミングする機能があり、これでタマヨのクリムゲンの狙撃はほぼ無害化された。
続いて突入、の前にコウジはマテバに近くの残骸を洞窟内へ投じさせた。
――ギュウンッ!
煙幕を貫くように描きわけ、黒い弾丸が投じた残骸を撃ち抜く。視界がほとんどないというのに、僅かな気流の乱れから予測して狙撃してきたのだ。
「行くぞ!」
だがこれで次弾発射までの時間は稼げた。行くなら今しかない。
コウジのマテバを先に、続いてハサンのキマリア、クロノが続く。
狙撃自体は時間を稼いだものの、他のエグゾスレイヴによる弾幕がむちゃくちゃに放たれる。その中を3機のミドルエグゾは射線を頼りに進み続けた。
そうしてついに、コウジたちは敵のエグゾスレイヴと肉薄した。
「うおおおおおおお!」
コウジよりも先にハサンのキマリアが飛び出し、大口径アサルトライフルの銃床で目前にいたミドルエグゾに挑みかかる。
敵はリロード中だったらしく、無防備な頭部カメラが餅のように叩き潰されてしまった。
「ハサン!」
ハサンのキマリアが攻撃する際中、タマヨのクリムゲンが装填を終えたらしく銃口をキマリアに向ける。
煙で隠れていたクリムゲンの形状は真っ赤な機影、右肩には大型の狙撃砲を備え、両腕はバルカン、姿勢を制御しやすいように4脚をしている蜘蛛のようなタイプだ。
クリムゲンはそのままキマリアの中心部を照準に合わせ、ゼロインでの射撃を敢行した。
キマリアは咄嗟に殴りつけた敵のミドルエグゾをクリムゲンに押し当て、僅かに銃の先が空を迷う。
おかげで射撃は失敗し、壁に大きな弾痕が残るにとどまった。
「動き続けてください! まともにあの弾をくらえば一撃ですよ!」
コウジはマテバを操作し、2丁の拳銃でクリムゲンを狙う。
ただしその視界はもう1機のヘビーエグゾに邪魔をされた。
そのヘビーエグゾはクリムゲンに似ているものの、灰色の塗装で狙撃砲もない。代わりに両肩には短距離ミサイルが乗っており、おそらく無誘導型のタイプだ。
「くっ!」
コウジは銃撃を中止して回避に専念する。
クリムゲンを庇ったヘビーエグゾは両肩の短距離ミサイルを一斉発射し、マテバがいた場所が爆発によって抉(えぐ)られた。
コウジは一度マテバを休ませるため、岩場に隠れて様子を伺う。
周辺ではハサンのキマリアが再び敵のミドルエグゾを破壊し、こちらは残りのクロノを撃破されていた。
敵は残りヘビーエグゾ2機、数の上ではいまだ優勢だ。
その中でタマヨは不利を確信したらしく、驚きの行動に出た。
なんとクリムゲンの狙撃砲を斜め上に向けると、砲撃を開始したのだ。
「――! 崩落するします!」
クリムゲンの砲撃により、古代施設側への通路が崩壊し、巨石によって行く手を遮られる。完全に倒壊はしていないものの、復帰にはかなりの月日が要りそうな被害だ。
更に問題はこちらが2対2にされて機体の大きさ的に不利だという点だ。
「一旦退きますよ」
コウジはハサンにそう告げると、宇宙空間にいる艦隊の援護が受けられる外へと退こうとした。その時だった。
「コウジ!」
しかしそれを遮ったのは、クリムゲンから発されたタマヨのスピーカー音声だった。
「生身での決闘を申し込んでやる! さもなきゃこの洞窟が完全に崩落するまで弾丸を撃ち尽くすよ! 被害が嫌なら受けて立つんだね!」
タマヨは言葉の通り、クリムゲンから降りて、先が二股の槍を構える。どうやら本気のようだ。
「……」
通常ならこの勝負受ける利点は全くない。けれどもこちらの事情が若干異なるため、決闘を受けないのはリスクが生じる。
それはハサンたちグーマ族という種族の性質だ。グーマ族は戦い、特に戦士という在り方を優先する。ならば決闘を申し込まれ、それを拒絶した人間をどう思うかは明白だ。
もしここで決闘を避ければ、最悪臆病者としてグーマ族の信頼を失い、同盟を解消されるかもしれない。そう考えればできる選択はひとつだ。
「コウジ。決闘だ」
「ええ、向こうの思惑に乗せられたのは癪(しゃく)ですが、受けざるを得ませんね」
コウジはマテバから降り、アサルトライフルと拳銃、それに手りゅう弾を装備して岩陰から出る。
タマヨはその装備に臆した様子はなく、いつでもかかってこいとばかりに槍を構えていた。
「では、行きますよ」
「いつでもかかってこいや!」
戦いの口火は、タマヨを射程距離に収めたコウジの発砲により開始されるのであった。
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