第15話
衛星基地の古代施設全体に響くアラートは、発生源であるリアクタールームへパラコープスの死体を呼び込むには十分だった。
「早くここを離れますよ!」
コウジがいち早く出入り口に走ると、通路の左右には既にパラコープスの死体の群れが見えた。
数は合わせて10体ほど、パラコープスの能力を考えればこの5人での突破は難しい。
そう判断したコウジは急いでリアクタールームへと戻るとドアを閉め、開閉装置の電源を切った。
「どうした? コウジ」
「もうここは囲まれています。進めません!」
コウジの報告に全員は絶望的な状況を悟る。後ろは臨界点を超えそうなリアクターエンジン、前はパラコープスの死体の群れ、万事休すだ。
「かくなるうえは……私が囮になって引き付ける! その間に皆は――」
「その出入り口も塞いでいる状況なんです。落ち着いてください、船長」
例えここでジュエルが囮になっても、開いたドアから残りのパラコープスの死体が襲い掛かってくるのは目に見えている。そもそもジュエルはスケイルの船員の希望、見殺しにするつもりは毛頭にない。
「他に出口はないですか!」
「急な注文じゃな。ちょいと待てい」
ユニは空中に映し出したホログラムの3D映像を凄まじい勢いで確認する。その間に残りの人員はドアを補強する物を探しに走り出した。
「むう、ダメじゃ。通風孔もパイプの隙間も狭すぎるのう。メンテナンス用の通路も遠いし、出入り口はここだけじゃ」
「……それは困りましたね」
コウジたちが悩んでいる間も、ドアの外でパラコープスの死体が何度も扉を叩いている。封鎖を破壊されるのも時間の問題のようだ。
「……外に助けを求めますか」
「他に手段はないな。通信を開くぞ」
ジュエルは急遽通信を開き、ドロップシップと回線をつないだ。
「こちらジュエル、問題が発生した。リアクターの安全装置は外したが、パラコープスに囲まれて部屋から出られない。助けは出せないか?」
ジュエルが話しかけると、ドロップシップから応答があった。
「いい案がある。任せろ。5分耐えろ」
ジュエルの通信に対してぶっきらぼうに答えたのは、ハサンだった。どうやらいい考えがあるらしい。
「任せましたよ。ハサン」
コウジが祈る気持ちで待っている間も、あまりないらしい。
リアクタールームの入り口のガラス部分が割れ、パラコープス単体が入り込んできたのだ。
「<焼却>!」
それに対してコウジとジュエルは火属性の魔法を浴びせる。変態前のパラコープスそのものは先で確認した通り効くらしく、こんがりとした死骸を幾つもできた。
しかし、数が多すぎる。これでは魔素が切れる方が先になるだろう。
「応援はまだですか!?」
コウジが叫ぶように通信へ話しかけるも、返答はなく雑音しか聞けない。どうやら取り込み中のようだ。
「ユニを盾に対処しましょう!」
「むうっ!? あたいを雑に扱うつもりかのう!」
「パラコープスに寄生されないのはアナタだけなのですから仕方がありません! 黙って囮になってください!」
有無を言わせずユニを前へと突き出した瞬間、ドアの一角が破壊され、パラコープスの死体が飛び込んできた。
「応射!」
ジュエルが命令すると、コウジたちは正確にパラコープスの額や胸を射撃する。間にユニを挟んでいるが、それはもう構っていられない。
「あわわなのじゃ!」
パラコープスの死体を撃ち抜いた際、他のパラコープスが人体の穴という穴から沸きだした。
中のパラコープスが現れる度、コウジとジュエルは<焼却>の呪文を使い焼き払う。だが変態したパラコープスは同じ方法で対処できない。
「手りゅう弾!」
ジュエルが腰から外して投擲したのは、缶ジュースがの手りゅう弾だ。投げられたそれは転々と床を転がり、変態したパラコープスの目の前で爆発した。
室内のため、当然コウジたちにもまき散らされた鉄片が降り注ぐのを見越し、全員が物陰に隠れて難を逃れた。
それでも、後続に他のパラコープスやその死体が続いていてくるのだった。
「焼け石に水です! ハサンたちはまだですか!」
「泣き言言わずに戦え。チーフ」
コウジの情けない声に、モーダンが舌打ちをする。けれども現状はコウジの言うように対処しきれない。
もうだめか。そう思った時、通信から声が返ってきた。
「もうすぐ到着する。リアクタールームから離れるな。備えろ」
「備えろって、何をです!?」
コウジが返答するよりも先に、腹からズンッとくる轟音が連続して古代施設に響き渡る。
その音はだんだんとこちらに近づいてきて、ついにリアクタールームまでやってきた。
途端、リアクタールーム前で天井が崩壊し、大きな機影が床を踏み潰したのだった。
「古代施設を破壊しながら来たのですか!?」
リアクタールームのすぐ近くまで来たのは、ハサンの『キマリア』だ。エグゾスレイヴで施設を破壊しながら進むとは、この状況下で思い切った行動をしたものである。
「腕に乗れ。捕まらないなら置いて行く」
コウジたちはアサルトライフルの連射と手りゅう弾の投擲でキマリアの差し出した左腕までたどり着き、必死に捕まる。
パラコープスらも我先にと波を起こしながら近づくも、キマリアの乱暴な狙いの大口径アサルトライフル弾を受け、四散していくのであった。
「牽引ロープを急げ」
またキマリアの上にはドロップシップが待機しており、ドローン形式のアンカーがキマリアの機体を固定した。
そしてついに、コウジたちを乗せたキマリアはドロップシップと共に古代施設を離れ、宇宙へと飛び立っていったのだ。
その数分後、ドロップシップに収納されたコウジたちは青い光と共に爆縮する小惑星を、分厚い耐熱耐圧ガラス越しに眺めていた。
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