第12話
「最終チェック完了。いつでもいけます」
コウジたちは3機あるうちの1機のドロップシップに乗り込み、船長であるジュエルの出発命令を待った。
船にはコウジとユニとジュエルとモーダン、それにスケイルの戦闘員3名、ハサンを含むグーマ族の戦士5名、最後に操縦士が1名の13人が乗っていた。
人数不足により操縦士には機長しかおらず、副操縦士にはコウジが探索部隊との兼任をする手はずとなっていた。
「よし、発進を許可する」
「了解、発進します!」
機長は再度滑走路を確認してから、エンジンを最大出力にして滑走する。
しばらくして浮遊感を感じ、ドロップシップは洞窟を抜け、白い大地を離れて晴天の空へと旅立っていった。
「まもなく大気圏を離脱します」
機長が言うように、青い空が陰(かげ)るように黒ずんでいき、白い惑星の球形が分かるほどの高度へとたどり着いていた。
「衛星基地へはナビした通りじゃ。間違うなよ」
ユニは機長とコウジに念を押し、2人はナビ情報をスクリーンに映しながら行き先を確認した。
「見えました。あの小惑星ですね」
ユニのナビ通り進むと、幾つかの大きな小惑星帯の中で人工物を発見する。
建物の大きさは外から見てもユニの古代施設並みに大きく、離着陸場もある。それだけではなく、宇宙港には十数隻の艦船が滞在していた。
コウジは艦船を見ていると、これだけあればティンクルイーターを倒さずともスケイルの船員全員を乗せて帰還できるのでは、という考えが頭をよぎった。
「念のために言っておくが、全ての艦船があたいのリンク無しに離着陸も操作もできぬようになっておるからの。悪いことは考えぬことじゃな」
「今更抜け駆けなんてしませんよ。人間不審なAIですね」
コウジは考えを見抜かれた動揺などおくびにもみせず、衛星基地への垂直着陸を開始した。
ドロップシップは可変式の翼でエンジンの角度を変えつつ、ほとんど揺れもなく離着陸場に降り立ち、降下の準備を完了させた。
「固定用磁力アンカーよし、搭乗用エレベーター稼働よし、いつでも出れます」
「分かった。全員気密服のチェック、作戦通りいくぞ!」
まずはドロップシップから2機のミドルエグゾが降下する。2機ともグーマ族の古代エグゾスレイヴで、周りを確認する強力な斥候だ。
「周囲に敵性反応なし。ただ見ての通り離着陸場に別の船が着陸……いや、墜落している」
ミドルエグゾのグーマ族の戦士が言うように、近くの離着陸場に突き刺さる形で巡洋艦クラスの船が浮遊していた。
先着のその船は損壊が激しく、再び離陸するのは無理な状態に見えた。
その様子をコクピットから見ていたジュエルは、それを危険なしと判断した。
「こちらでも確認した。状態から見てもかなり古い。生存者はいないはずだ。探索部隊を出すぞ」
離着陸場の安全を確認されると、次にコウジたちが搭乗用のエレベーターから降りる。重力がほとんどないため、10名の探索部隊は姿勢制御兼移動用のバックパックを装着し、武装したまま衛星基地の古代施設入口へと進んだ。
武装の方はそれぞれ金属薬莢のものや小型の精霊機関を用いた形状の異なるアサルトライフル、もしくは拳銃だ。
コウジの場合、精霊機関内臓の白いアサルトライフルをメインに、サブに金属薬莢の拳銃を所持していた。
「入り口はロックされているようですね」
「まぁ待てい。あたいにかかればちょちょいのちょいじゃ」
その言葉通り、気密服無しのユニが玄関口の端末に触るとあっという間に扉が開いた。
「よし。行け」
それからスケイルの戦闘員が先に顔を少しのぞき込んでから施設へと侵入する。すると重力発生装置があるのか、戦闘員たちがずしりと床に着陸する様子が見てとれた。
「クリア」
「こちらもクリア」
戦闘員たちが入ると古代施設の灯りが勝手に点く、どうやら人感センサーが働いているようだ。
「部隊を二手に別けますか?」
「いいや、目的地はひとつだ。最初にユニのリンクを回復してから探索を始めよう。前進だ」
ジュエルが率直に命令を下すと、全員が周囲を確認して進み始める。
中はユニの古代施設に似ているものの、照明があるのに暗い。非常用の照明だけが機能しているらしく、ライトなしには遠くがはっきりと視えなかった。
また、通路にはペンキをこぼしたような赤色が所々にまき散らされていた。
「これは……血?」
その陰惨な光景に、探索部隊の皆に緊張が走る。理由は何にしろここで戦闘が行われたようだ。
ただ血の色をよく見ると、劣化がかなり激しい様子も判別できた。
「かなり古い血痕ですね。つい最近付いたものではありません」
「それでも警戒するに越したことはない。全員油断するな」
探索部隊はいつでも撃てるように銃を構え、再び歩き出した。
「原因は仲間割れかでしょうか?」
「他に理由は考えられないな。長く窮屈な船舶での活動によるストレスか。誰かの陰謀か。だが不思議だ」
「不思議とは?」
「これだけ歩いているというのに、死体がひとつもない」
ジュエルの言う通り、念入りに周りを見ながら進んでいるにも関わらず、死体の影も欠片も見当たらない。これだけの出血量ならその場に倒れてもおかしくないのに、だ。
「やはり変だ。全員、待ち伏せも考えろ」
普通なら100年近く誰も立ち寄っていない可能性のある設備でここまで警戒するのも変な話だ。
しかし何かが普通とは違うと全員が感じ、警戒を怠らず進み続けた。
それでも何事もなく順調に進行し、探索部隊はいつのまにかメインの管制室に到着した。
「何もありませんでしたね」
「何もなければそれでいい。ユニ、後は頼むぞ」
ジュエルに命じられたユニはひょこひょこと前に歩くと、近くのコンソール画面を起動した。
「システム異常なし、電源オンライン、施設全体のネットワークオンライン、よし起動じゃ!」
ユニはキーボードなど使わずコンソールに触ったまま全機能を復旧させる。
そうして少し待っていると、管制室の灯りが強く輝き、施設全体に光が戻るのを感じた。
ただ、光を目で追って後方を見やると、そこに探索部隊の隊員以外の誰かが立っているのを発見した。
「いつのまに!」
急いで全員がその謎の人物に銃口を向ける。だがその謎の人物は銃を向けられても臆した様子はない。
謎の人物は何も言わず、ただただにこやかに笑い、右手を振って近づいてきた。
「止まれ! その場で動くな!」
謎の人物に静止を促すも、相手は命令を聞かない。
しかも謎の人物をよく見れば、服におびただし血痕が付いており、とても平気そうには見えなかった。
「動くなと――」
部隊のひとりが銃床(じゅうしょう)で謎の人物を殴り倒そうとした時、パンッと乾いた音がその場の緊張を破った。
銃を撃ったのは、いつのまにかコウジの拳銃をくすねたユニだった。
「どうして撃ったんですか!」
「よく考えるのじゃ! この状況で生存者がいるワケないじゃろ! こいつは――」
銃弾は謎の人物の右胸に当たり、そいつは笑顔を消して自分の傷口を触って確認した。
そして再度コウジたちに顔を向けると、にんまりと口角を吊り上げた。
その瞬間、謎の人物の腹部が突如膨張し、血肉をまき散らしながら爆発したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます