第8話
「あー。ワタシノコトバワカリマスカ?」
「変な話し方をするな異邦人。ちゃんと伝わっている」
コウジが拳銃を突きつけているグーマ族の男との応対に苦慮した結果、相手はその甲斐もなく流ちょうに言葉を返してきた。
「ちゃんと自動翻訳機が働いているのう。これなら意思疎通は問題なさそうじゃ」
「……そういうことは最初に言ってくださいよ」
何にしても、これなら言葉が通じない現住人ではなくなったわけだ。後は相手の出方次第である。
「こちらとしては敵対心はありません。できれば穏便に済ましたかったですが、そうもいきませんでしたね」
「グーマ族の掟。異邦人は戦士しか認めない。戦士は戦いでしか分からない。そしてお前、勝った」
文脈はやや稚拙であるものの、コウジをエグゾでの戦いで試すというユニの言葉は正しかったようだ。
「それにしても、もし私が万が一あなたを殺してしまった場合どうするつもりだったんです?」
「決闘は見届け人を必ずつける。それは心配ない」
グーマ族の男がそういうと、近くに別のエグゾの機影が現れた。どうやら少し遠くから様子を伺っていたようだ。
「お前、グーマ族の戦士である俺に勝った。グーマ族はお前を認める。俺はハサン、よろしく」
ハサンは自ら名乗ると、毛皮でごわごわとした手で握手を求めた。
「私はコウジ・アラカワです。よろしくお願いします」
コウジはハサンの礼儀正しさを受け取り、ふかふかな手を握り返したのだった。
それからコウジはハサンの案内で現在のグーマ族の集落に招かれる運びとなった。
アーカムはもうボロボロになってしまい自立できないため、エルコのデータだけをサルベージしてその場に残す決定をした。
代わりにハサンのキマリアに同乗し、ふきっ晒しのコクピットで震えながらも1時間足らずで目的の場所に到着した。
「俺たちの村。今はここだ」
ハサンが指さしたのは大きな洞窟だ。ただそこはユニの居場所と同じく人工的に掘られた形跡があった。
キマリアで中に入ると、すぐ目の前には雪で白く塗られた木造の大扉が待っていた。
「ハサンだ。通してくれ」
通信を繋げると、それに応じるように扉が開く。
中に入ると、そこは暖かい。おそらく焚火だけではなく、暖房装置か何かが置かれているのだろうとコウジでも容易に想像できた。
キマリアが歩く中心の通りからは、外にあった木造の建物より簡素な家やテントが並んでいた。
いかにも臨時の拠点とばかりの街並みで、着の身着のまま逃げてきたのがよく分かった。
「ここに来てあまり経ってないのか?」
「皆が避難してきたのはほんの3か月まえだ。だが皆すぐにでも帰りたがっている。こんな気候じゃなければな」
「……もし同じ境遇なら私もそう思うでしょうね」
キマリアには子供が好奇心いっぱいに近づいてきたり、大人が手を振る歓迎を受けつつ、しばらくして何もない広場に辿り着いた。
おそらくここはドッグのような場所なのだろう。近くではエグゾスレイヴの周りを木で足組をし、整備をしている最中のグーマ族が見られた。
原始的なやり方だがグーマ族の文化レベルならそんなものなのだろう。と、コウジは内心納得した。
しかしこれだけの技術でエグゾスレイヴを発掘しているのが驚きだ。例えるなら弓矢や槍を持つ部族が戦車を扱っているようなもの、そんなあべこべな光景がコウジの目の前で展開されているのであった。
「降りろ。村長と挨拶しろ」
ハサンはぶっきらぼうに言うと、コウジを連れ立ってキマリアから降りる。
降りてから少し歩くと、コウジの周りには大人や子供を問わず物珍しさに集まった群衆に取り囲まれた。
「外の住人の来客は久しぶりみたいですね」
「それはそうだ。口伝によれば最後に旅人が来たのは100年以上前だ」
「その旅人さんも勝負に勝ったのですか?」
「いいや」
コウジは深く訊くのは避けた方が良い話題と察し、興味本位な口をしっかりと閉ざした。
2人はそのまま村人たちに囲まれたまま大きなテントの前に来る。多彩な色合いと一目を浴びる規模から、そこが村長の住む場所だと表していた。
「入れ。俺は別用だ」
ハサンはコウジをテントに押し込むと、自分は外に出てしまった。
「あんたがハサンを負かした旅人かい?」
コウジがどうしたものかとドギマギしていると、奥から声がかかる。
テントの中は暗いものの、目を凝らせばひとりの老人のようなグーマ族が座っていた。
老人は顎から茶色の毛皮と違う白髭を垂らし、頭には鹿の角の飾りをあしらった帽子をかぶっていた。
「あなたがここの村長ですか」
「いかにも、さて旅人よ。この場所には何の用かな?」
村長の威厳に満ちた低い声に気圧されながらも、コウジは目的を果たすべく口を開いた。
「この星と、あなたたち一族の命運にかかわる話をしにきました。どうかお聞きください」
「ふむ」
村長は長くたくわえた髭を撫でながら、コウジの話を聞きいるのであった。
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