第7話
アーカムに搭乗するコウジの前に現れた謎のエグゾスレイヴはゆっくりとした歩みで吹雪の中を進んできた。
近づけば吹雪に隠されていたそのエグゾスレイヴの特徴も分かる。機体は白と緑の迷彩柄、逆三角形の体型に両肩はミサイルポッドを積載している。備わっている両腕両足共に太く、持っている大口径アサルトライフルは明らかに軍用だった。
「見覚えがあります……。あれは汎用戦術索敵ミドルエグゾの『キマリア』、古代遺跡などで発掘される古い型ですね」
「そうじゃな。こちらのデータとも合致する軍用のものじゃな」
コウジはキマリアの出方を伺っていると、向こうが立ち止まる。
そうして今度は、ゆっくりとその両手に持つ大口径アサルトライフルの銃口をアーカムに向けたのだった。
「!?」
コウジが素早く操作すると、アーカムは咄嗟に近くの木造建築物に姿を隠す。
その後、連続で爆破したような銃撃音と共にアーカムが元居た空間と建築物の一部があっさりと破壊された。
「警告無しの発砲ですか! 何でですか!?」
「あー、説明がまだじゃったな」
意表を突かれたコウジに対して、通信のユニは初めから分かっていたような納得した声色で解説を始めた。
「グーマ族は超排他的な種族でのう。基本対話を好まないのじゃ」
「!? それじゃあ交渉なんてできるワケないじゃないですか!」
「そう結論を慌てるな。グーマ族は戦いで相手を認める文化があっての。つまり戦いで勝った相手には心を開いてくれるのじゃ」
「……あれと戦って勝てと?」
キマリアは古代の代物とはいえ状態も良く、整備が行き届いている様子だった。しかも元軍用、同じミドルエグゾとはいえどただの作業機体であるアーカムが勝てる道理はない。
「こちらの勝算がほとんどないと分かって送り出しましたね?」
コウジは静かな怒りをにじませながらユニに問うた。
「今最も優先されるのはより星を救うための近道じゃ。あたいの機能が回復した今、代用品のある人員をまず先に派遣する方が合理的というものじゃろ」
ユニはほくそ笑むようにそう言う。
確率という問題ではそうなのだろう。グーマ族との協力を得る最短ルート、最適な状況はグーマ族と早期接触してスケイルの乗員との合流だ。たったひとりのコウジの損失いかんは問題ない。
だが人として、道理としては大問題だ。その点はやはりAI、信頼とか人道的とかの判断は冷酷である。
「これは重大な信用問題ですよ。約束とは何だったんです?」
「情報開示が遅れたことは謝るのじゃ。しかしこうでもしないと向かいはしなかったじゃろ? それに約束と信用は別問題であろう? 自分の迂闊さを呪う方が妥当ではないかのう?」
「……っ!」
コウジはユニの人間臭い喋り方に気を取られ、ユニを信じすぎた。それがまず間違いだったのだ。
「信用とは徐々に積み上げるものじゃろ? 何の担保も無しに相手を信じるなど、阿呆(あほう)のすることじゃぞ」
ユニの話は合理だ。約束も合理の上、一方的に信じたのはこっちの責任、それでも人間と言うのは非合理的な生き物だ。
「後で大バクチの請求はさせてもらいますからね」
「構わぬよ。まずは生き残ることじゃぞ」
ユニに言われるまでもなく、それはもちろんだ。
まずコウジはアーカムを後退させつつ、自前の武装を確認する。
アーカムに標準装備されている自衛用の武器は胴体に固定された20ミリ機関砲と両側面腕部の50口径軽機関銃2丁だ。
これだけでは同重量の軍用エグゾスレイヴと戦うには不十分。まともな火力戦闘では勝てる道理がない。
しかも考える暇もなく、敵のキマリアは角を曲がって追撃してきたのだ。
「くっ!」
コウジはアーカムを再び隠れさせようとするも、今度は敵の射撃が早い。
キマリアの大口径アサルトライフルが火を噴くと、アーカムの左作業用アームがあっさりと吹き飛んでしまったのだ。
「――っ!」
アーカムが揺れ、中のコウジも揺さぶられるがすぐに制御を回復する。
ただし敵のキマリアはアサルトライフルだけではなく、アーカムの隠れる木造屋敷に向かってミサイルを射出してきたのだ。
「欺瞞ミサイルは発射!」
アーカムは防衛用に武器だけではなく欺瞞用ミサイルもついている。これはレーダーや赤外線をかく乱する作用があり、もちろん光学的にも阻害できる。
身を隠していた建築物へのミサイル直撃と共に、欺瞞ミサイルが放射線を描いてキマリアの足元に炸裂した。
コウジはその隙にアーカムを別の建物に隠すのだった。
「形勢は不利じゃのう。無理そうなら帰ってもいいのじゃぞ」
「黙ってください! そもそも逃げるにしても追撃されればスピードで負けます。ここは意地でも勝たせてもらいますよ」
コウジは頭の中で作戦を練る。敵は高火力、こちらは武装で劣る。持っているのは工作用の資材くらいだ。
だがこの手札でも勝ち目はある。コウジはそう確信した。
コウジは突如、アーカムの50口径軽機関銃を空中に向かって乱射した。
「何をしとるんじゃか。敵に位置を報せるようなものじゃぞ」
「いいえ、これでいいんです」
アーカムはすぐに準備にとりかかり、キマリアの出方を待った。
キマリアは銃声に誘われ、まもなくやってきた。この視界の悪さ、使っているのは光学装置だけではなく赤外線カメラとサーモセンサーだろう。
そしてキマリアは建築物に隠れる機影と熱源を間もなく発見する。
キマリアは容赦なく曲がり角から飛び出し、機影に向かって掃射した。
しかし、それは迂闊だった。吹雪の中でもしっかりと光学カメラで確認すれば分かったものの、銃撃を食らわせたのはただの金属板で造られたハリボテだった。
熱源は赤熱した50口径軽機関銃、これは囮だ。
「リアクター始動!」
本命のアーカムは、キマリアのすぐ近くにある倒壊した木造建築物と雪を被って隠れていた。リアクターを切っていたのは雪の冷たさでごまかし熱源を察知されないためだ。
アーカムはキマリアが振り返る前に、またしても欺瞞ミサイルを直接叩きこむ。
欺瞞ミサイルのピンク色の煙にまかれ、キマリアは再びアーカムを見失った。
「ここ!」
アーカムはその隙に、キマリアの背後をとった。
そのままアーカムはキマリアの後部にしがみつき、接近戦に持ち込む。
それもただの接近戦ではない。こちらの工作機械のテルミット溶断を用いて敵の後部ハッチを丸裸にする作戦だ。
キマリアもすぐにこちらの狙いに気付いたのか。軍用のパワーアームでアーカムを振り切ろうともがく。それに対して、アーカムは残っている20ミリ機関銃を乱射して気を引いた。
20ミリ機関銃とはいえキマリアの装甲は傷1つ付けられない。それでもその銃撃は相手の動きを阻害させ、時間稼ぎを果たしてくれた。
「これで!」
溶断によってハッチが開かれた時、キマリアはついにアーカムの本体を捕まえ、乱暴に投げすてる。しかしその前にコウジは後部ハッチから脱出して、キマリアの後部に開けられた空間へ飛び込んだ。
「降参しろ。俺の勝ちだ」
コウジがコクピットに乗る人影に拳銃を突きつけると、相手はゆっくりとこちらを見た。
その人物は人間ではない。人型をしているけれども分厚い毛皮と丸い耳を持った獣人、いうなれば熊と人間を混ぜた生き物のような存在だった。
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