第6話
「どうしてたった3か月なんですか!?」
傭兵海賊『ヨリトモ』の船『ハッソウ』を排除したコウジとユニであったが、ここでユニから星のタイムリミットを告げられた。
「外は見えたのかえ? ココは元々温暖な惑星じゃったが、ティンクルイーターのせいで惑星はスノーボールになりつつあるのじゃ。それに正確にはこの施設が耐えられるのは2か月ほどじゃな」
「さらに短いじゃないですか!?」
ティンクルイーターは星の熱を奪う宇宙生物だ。火山や海溝の割れ目からコア付近までたどり着き、熱エネルギーによって代謝を行い生存している。
そして星の熱を奪いつくした後はまた次の惑星を目指して宇宙遊泳してくという、厄介極まりない生き物なのだ。
「通常の星ならば超新星爆発して中性子星かブラックホールになるが、ティンクルイーターに喰われれば石屑の残骸になってしまうのでな。これはいかんというわけじゃ」
「超新星爆発もこっちとしては敵いませんよ。それで、施設を復旧した今は解決できそうですか?」
「施設はまだフル稼働できておらぬ。もっと人手が必要なのじゃ」
ユニはそう言うと、近くのデスクトップに地図を表示させた。
「本来ならお主以外の船員に協力を仰ぎたいところじゃが、あいにく生きておるかどの座標に落ちたのか分からぬ。そこでじゃ。まずは原住民をあてにするのを先にするのじゃ」
コウジはユニにスケイルの乗員の生存の可能性を言われ、ハッとなる。確かに船の崩壊まで時間があったため、脱出した傭兵海賊と同じくどこかに落ちのびているかもしれない。
「なら船員捜索の方に時間を割くべきではないですか」
「安心せい。今はあたいが緊急ビーコンを飛ばしておる。もし生きておるなら自分たちからこちらに来るはずじゃ」
「ですが……」
ユニの言い分は合理的だ。星の寿命が近いとなれば、より早くより多くの人員を獲得できる選択肢をとるべきなのだ。
だがスケイルの船員はコウジと1年の苦楽を共にした中だ。そう簡単に捨てて置くのは無理というものである。
「……大丈夫じゃ。この星は寒冷地とはいえ、まだまだ生存に十分な環境じゃ。仲間なら信じてやるべきではないのかのう?」
コウジはユニに諭され、心の内では納得せずとも状況を優先した。
「……分かりました。原住民との接触を早く終わらせれば捜索してもいいんですよね」
「もちろんじゃ! 意見の相違が解決して何よりじゃ」
本当は今すぐにでも探しに行きたいが、ユニの協力なしではそれも叶わない。ならば先の用事を素早く解消して力を合わせるのが最善の方法だった。
「で、な。原住民と言うが奴らは中々の知性を持っておる。何せ古代のエグゾスレイヴを発掘して崇めたり操作しておるからのう。侮るでないぞ」
「エグゾスレイヴを操れる? なるほど、だから助けを得るには最適な人員というワケですね」
「そういうことじゃよ。ではなるべく早く頼むぞ」
コウジはユニに頼まれるまま、アーカムに乗り直して仕事に取り掛かった。
アーカムで外に出ると、そこは一面の雪景色だ。白く厚い絨毯がそこら中に敷かれ、アーカムが進むごとに機体の熱と圧力によって雪が僅かに溶け、それでも残った分は脚部で掻き分けていく。
コウジはユニに指示された地図の座標を元に、どんどん森と山の奥深い場所へと慎重に侵入していった。
「具体的にはどのようにコンタクトをとればいいのですか?」
コウジが通信でユニに呼び掛けると、答えが返ってきた。
「まずはあたいが事前に見つけておいた原住民の村まで行くのじゃ。原住民を見つけたら、また指示をするからのう」
「頼みますよ」
雪の積もり具合はおそらく3メートルほど、アーカムの足回りが半分以上埋められてしまう規模の積雪だ。
しかも視界は吹雪によってノイズのように邪魔をし、遠くは白く霞んで見えない。頼りになるのはレーダーと推定測定された位置座標だけである。
幸いにもコクピットの内部はリアクターの熱が循環されているおかげで寒さが緩和され、作戦継続に支障はなかった。
「こんなところで遭難だけは勘弁してくださいよ」
コウジがさらに進むと、何の脈絡もなく急に森を抜けた。
「ここは……」
アーカムのカメラに移されたのは高床式の住居群だった。
文化レベルで言えば中世を思わす簡素な木造りの家で、寒冷地に耐えうる頑丈な造りだ。それが大通りや小道を作るように配置され、統制された集団による建築物であるのは明らかだった。
「村ですね。しかしこれは――」
コウジがアーカムで近づくも、村からの反応はない。それどころか村に灯りひとつとして見られないのだ。
こんな寒い中、火を起こしていないと言うのはつまり誰もいないのが原因だとすぐにわかった。
「中は凍っていますね。死体もありません。少し前から放棄されたようですね」
「うむむ、1か月前に探査ドローンを向かわせた時にはまだおったんじゃがな。この豪雪と燃料の問題で引き返したのが悪かったのう」
「では原住民の手掛かりを失った。そういうワケですね」
「仕方がないのう。なら今からでも探査ドローンを飛ばして――」
「ちょっと待ってください」
ユニが言い終わる前に、コウジは正面のカメラがとらえた映像を確認して身構えた。
「何か、います」
カメラの視線の先には、アーカムとほぼ同じ大きさの人影が吹雪の中で怪しく仁王立ちし、こちらを観察するように佇(たたず)んでいたのであった。
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