第23節 -心に秘めたる思い-

 聖パウルス大聖堂の中に無邪気なヒールの音が鳴り響く。

 本来、大聖堂などの歴史的重要建築物においてそのような靴を履いて歩くということは禁忌であり、忌避されるものだというのに、少女は構うことなく歯切れの良い音を堂内に踏み鳴らす。

 さらりとしたツインテールを揺らし、抱きかかえたぬいぐるみ風カバンの双頭の鷲の頭を撫でながら上機嫌に一歩ずつ高祭壇へと向かって歩く。


 軽快なヒールの音を耳にしたトーマスは、また例の少女がやってきたのだとすぐに悟った。

 勝利の十字架のたもとに跪き祈りを捧げ続けていたが、音がすぐ傍まで来たところでふっと目を開け立ち上がって言う。

「まだ何か用があるのかね?アンジェリカ。」

 振り返りはしない。視線を合わせることすらおぞましい。

 トーマスの言葉に、くすくすと笑い声をあげながらアンジェリカは答えた。

「べーつーにー?用事がないのはいつものこと、だからね?」

 ねっとりとして甘ったるい声で言う彼女は、明らかに挑発の意思を持って言の葉を刻んだようだ。

 大溜め息をついたトーマスは高祭壇の奥へ歩を進めて言った。

「私に与えられる報酬が死だと言ったな。」

「えぇ、お似合いの末路だと思うわ。」

 相変わらず楽し気に、目の前の獲物を嘲笑うかのような声色で言うアンジェリカに向けて、トーマスはあっさりと言い返した。


「そうか。ならば良い。」


「はぁ?」

 アンジェリカは怪訝そうな表情を浮かべてじっとトーマスの後ろ姿を眺めた。

 振り返ることなく真っすぐと前を見つめる彼の姿は、恐怖による震えも無く、諦念による絶望すら微塵も感じさせない。むしろ、良い意味で固い決意を抱いたような……希望に満ち溢れたもののように感じられたからだ。

 しかし、そんな彼の姿を眺めたアンジェリカはすぐに真意を悟るに至った。

「あー、そういうこと。信仰者の考えることっていうのは本当に意味が分からないわね。昔も、今も。」

「我々が考えるのではない。主が与えてくださるのだ。道筋とは全て定められたもの。その成り行きを受け入れ、与えられた生を全うする。日々の糧を与えてくださる、大いなる主の慈悲深さに感謝を捧げることで我々は救いを得るのだから。」

「うわぁ、気色悪ぅ。」熱っぽく語るトーマスの言葉を聞いたアンジェリカは間髪入れずに言った。構うことなくトーマスは言う。

「そういう君はどうなのかね?私の目から見れば、私よりもよほど君の方が主の救いというものを求めているように見える。」

「悪い冗談ね。言わなかったかしら?私は神様に嫌われているの。」

「主は全ての人を等しく愛してくださる。君とて例外ではない。」

 この言葉に、珍しく苛立ちを見せながらアンジェリカは吐き捨てるように言った。

「嘘よ。そうだというのなら……」


 『どうしてあの時』


 アンジェリカは喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。

 脳裏に蘇るのは遠い昔の光景。自分自身で、自分の両親を手に掛けたときの記憶だ。

 僅かな沈黙をやり過ごした後、アンジェリカは後ろへ振り返りトーマスへ背を向けて言う。

「用事がまったくないわけではなかったの。貴方に惜別の言葉を贈りに来たのだから。でも、気分では無くなったわ。絶望に打ちひしがれて、赦しと助けを乞う無様で憐れな司教様を崖から蹴落とすような景色を想像していたのだけれど、そんなに希望に満ち溢れたようなことを言われては興ざめも甚だしいというものだわ。」

「苦悩の時は去った。もし、君がその光景を目の当たりにしたかったのであれば、ここへ来るのが少し遅かったようだ。」

 トーマスはようやく彼女へと振り返って言う。

「まったくね。とても損をした気分。」

 興醒めしたという事実を隠そうともせず、アンジェリカは先の彼に負けず劣らずの大溜め息をついて歩き出した。


 自分に対する興味をすっかり失ってしまった彼女の後姿を目で追いながらトーマスは言う。

「最後にひとつ聞こう。君が私の元を初めて訪ねた時に見せたもの。あれは本当に全て演技だったのかね?」

 アンジェリカは歩みを止めることなく右手を持ち上げて横に振る。

 肯定、と捉えられるような仕草だ。歩き続ける彼女の姿を少しずつ赤紫色の煙が包む。

 だが、粒子の煙に包まれた体が虚空へと消え去っていく寸前に、アンジェリカはこう言い残した。

「ほとんど嘘よ。ほとんど、ね。」


 赤紫色の煙が解けきった時、大聖堂の中から彼女は完全に姿を消していた。

 残した言葉の意味をトーマスは考える。

 そしてある結論へと至った上で囁くように言った。

「主よ、憐みたまえ。」

 まるで彼女の為に祈るような声で。小さく。


 トーマスが言の葉を言い終えると、視界の向こうから慌てた様子で1人の信徒が早歩きで近付いてくる様子が見えた。

 自分の元へと駆け寄ってくる信徒を見てトーマスは穏やかな声で言う。

「そのように急いて、どうしたのかね?」

「司教猊下。祈りの最中に申し訳ありません。火急にお目に入れて頂きたい書簡がございます。」

「書簡?今どきかね?」

 不思議そうな顔をするトーマスに信徒は1通の封書を手渡した。

 トーマスは手に持った封書をまじまじと眺める。間違いなく自分宛のものだ。おもむろに裏側に目を向けると、そこには見慣れない紋章の封蝋が押されているのが確認出来た。

「どこから送られてきたものかわかるかね?」

「いえ、差出人は分かりません。ですが、その手紙を持参したのは警察の方でした。」

「警察が?このような封書を?」


 トーマスは考えた。

 思い当たる節はある。アンジェリカの甘言に乗って事件を引き起こす火種を蒔いたのは間違いなく自分であるからだ。しかし、だからといってこのような形で、まず始めに警察が書簡を寄こすなどということがあるのだろうか。

 いや、どうにも何かが違う。結局のところは意味も答えも中身を確認して見なければ分からないのだろう。

 そう思い至ったトーマスは穏やかな笑みを湛え、ここまで封書を運んできてくれた信徒に礼を伝える。

「ありがとう。戻ってからじっくりと中身に目を通すとしよう。」

「はい。それでは、私は失礼いたします。」

「気を付けなさい。外は未だ荒れているのだろうから。」

 トーマスの言葉に、信徒は深々と一礼をすると再び足早にその場から去っていったのであった。


                 * * *


 北から時計回りに教会へ渡り歩き始めておよそ5時間。尋ね歩いた教会の数もようやく十を数えるに至る。

 モーリッツヴィエルテルの総合病院のすぐ傍に聳える聖ザンクトマウリッツ教会をフロリアン達は訪れていた。

 カトリック系のこの教会は、歴史的な街であるミュンスターにあって、古くから存在する重要な建築物のひとつだ。一説では西暦1084年にはその存在があったのではないかと言われている。

 ロマネスク様式の東西塔を備える建物自体は色あせてはいるが、それこそがこの地に長く存在し続けてきた証でもあり、見る者に敬意を表させるような荘厳さを醸し出している。


 内部は白色基調の上品な雰囲気で装飾されている。その中でも注目すべきはライトクロス、〈光の十字架〉であろう。

 プレキシガラスで構築された2メートル四方の十字架は、外部から入射する光を内部反射させることで様々な色の光を放つ。見る者の立つ位置や、光の入る角度によって異なる輝きを放つこの十字架は神秘の具現と例えるにふさわしいものに違いない。


 どの教会を尋ねた時でも同じことだが、信徒たちへ話に行ったロザリアと周囲の警戒を行うアシスタシアの位置から見て、丁度中間地点付近でフロリアンは待機している。

 離れた位置にいるロザリアとアシスタシアを一目ずつ見やり、視線をヘルメスへと落とす。

 今のところはこれといって不穏な動きを示す兆候も見受けられない。午後まで続いていたプリンツィパルマルクトの騒動も今は落ち着きを見せているようだ。

 ロザリアの放った人形たちがミュンスターの街に存在する教会を外周から巡回しているという情報も逐次ヘルメスで探知できるようになっている。

 彼女がどれほどの人形を送り出したのかは定かではないが、それにしても各地を渡り歩き情報の拡散を行うような複雑な行動をする人形を同時に多数操る彼女の異能に底知れない畏怖を覚えもする。

 普段、機構内で身近な存在として接しているイベリスも科学では説明のつかない超常の存在ではあるが、ロザリアという少女を間近で見ている印象は、それとは違う独特のものだ。

 光にまつわる事象を自在にコントロールしてしまうイベリスと比べても際立つ異能。


 ヘルメスから視線を外し、手元の時計に目をやる。

 時刻は午後6時を示そうという頃合いである。今日の活動はこの辺りまでだろう。教会に集まる信徒に向けた彼女の話が終わり次第、本日の任務は完了となるはずだ。

 プロヴィデンスで演算した状況では、作戦の進行率は35パーセントであった。午後を当に過ぎて動き始めたことを考えれば悪くない数字だろう。

 明日の午前から継続して活動すれば十分に目的達成に間に合うと推定される。

 行動が目に見える成果となるのはマップ上の話で、人々の精神に対してどれほどの影響を与えているのかは分からない為、うまくいっているのかすら判断する方法もないが、騒ぎの拡大が大きな進展を見せないということはそれなりに効果を発揮しつつあるということなのかもしれない。


 フロリアンが高祭壇に視線を送り、光の十字架を視界に捉えた時、そのすぐ下から彼女がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。話は無事に終わったらしい。

 ロザリアがすぐ傍まで歩み寄ってくるのを待って声を掛ける。

「手ごたえはどうだい?」

「それなりには、といったところでしょうか。こうした情報の伝搬が効力を発揮するのは、人の思考がそれなりに落ち着きを見せた頃になるでしょうし、まだ時間が必要ですわ。」

「十分だろう。僕達はきちんと前に進んでいる。それと、プリンツィパルマルクトの騒ぎはほとんど落ち着いたらしい。」

「まぁ、それはそれは。」

「今も警察が厳戒態勢を敷いてるみたいだから、物々しさ自体に変わりはないだろうけど、少なくてもデモ隊が闊歩するような状況は脱している。」

「良いことです。民衆の平穏は早く取り戻さねばなりません。」

 2人が会話をしている最中にアシスタシアが歩み寄って言う。

「継続して外の様子を監視していましたが、異常を感じるような気配もありません。例の赤い霧の動きも穏やかなものです。まるで目的は達したと言わんばかりに小康状態に入っています。」

 彼女の言葉を聞いてフロリアンは言う。

「赤い霧。亡霊を生み出す異常な気配というものだったね。」

「左様でございます。」

「それが薄まったということは、やはりアンジェリカの計画においても次の段階へ移ろうという時なんだろう。彼女自身が動く気配を見せないということは、アシスタシアの言う通り〈目的は達している〉のかもしれない。」

 ロザリアが言う。「人々の意思によって、自動的に引金が引かれるのを待つだけ、と。どこかより、その成り行きをつぶさに見守っているのやもしれませんわね。」

「問題はアンジェリカが僕達の動きに気付いた時にどう動くかということだ。こればかりは機構のシステムを使っても予測することが出来ない。」

「あの子は気まぐれ猫のようなものですから。ふらっと現れては悪戯のようなことをしてどこかへと消え去る。貴方様におかれましてはくれぐれもお気を付け下さいませ。」

「承知しているよ。ただ、もし彼女が僕の前に現れるというのなら、もう一度直接話をしてみたいというのも本音だ。一昨夜のようにただ怯えるだけではなく、今度は正面から彼女と会話をしてみたい。」フロリアンは昨夜からずっと考え抜いていたことを初めて口にした。

「とてもお勧めは出来ませんわね。命を投げ出すようなことは控えてくださいまし。対話はわたくし達が引き受けます。」

 険しい表情でロザリアは制止する。

「貴方達の対話は、初手から拳のぶつけ合いになりそうな気がするよ。」

「失礼ですわね。わたくしたちを何だと思っていらっしゃいますの?」

 珍しく拗ねる様子を見せたロザリアを見て微笑ましい気持ちになりながらフロリアンは言う。

「とはいえ、確かに言って聞く相手でもないだろう。彼女が怖くないと言えば嘘になる。それでも、逃げるばかりでは解決しないことだってある。今あの子が僕に執着しているのなら、ある意味ではチャンスだ。僕に聞きたいことを聞くまでは殺したりしないだろうからね。こちらも聞きたいことを聞く絶好の機会になるかもしれない。」

 淡々と言うフロリアンに、今度はアシスタシアが懸念を表しロザリアに同調して言う。

「私はロザリア様に同感です。十分に承知されていらっしゃると存じますが、あの無邪気で愛らしい見た目に騙されませぬよう。“あれ”は真正の悪魔です。いえ、そう成り果ててしまったもの。行き着くところまで辿り着き、引き返せなくなった人間の末路ですから。」

「それでも、だ。」


 3人の間に幾ばくかの沈黙が流れる。

 すると全員がおもむろに視線を重ね、静かにうなずき合う。その中で最初に口を開いたのはロザリアであった。

 小さな溜め息をついて言う。

「聞き分けのないお方だこと。」

「何の力も持たない人間に出来るのは、いつだって言葉を交わすことだけだよ。」

「それで、どのようにしてあの子と対話をなさるおつもりですか?」

「今日の夜、敢えてプリンツィパルマルクトに向かおうと思う。わざわざ僕を尋ねてホテルまで足を運ぶくらいだ。僕が夜、1人で外に出れば彼女の方から近付いてくるだろう。」

「承知いたしました。但し、常にアシスタシアを監視に就かせます。」

 渋々といった様子でロザリアは言った。

「ありがとう。」

「くれぐれも無茶なことはなさいませんよう。」


 フロリアンの身に何かあれば、マリアからどんなことを言われるか。場合によっては自分の身の心配をしなくてはならない。

 非常に気が重たい。ロザリアは少し頭を抱えたい気持ちになった。


 一通りのことを話し終えた後、ロザリアは言う。

「では、そろそろお暇いたしましょう。夜が来ます。本日の行動はこの辺りまでにして、計画の続きは明日の朝からということで。待ち合わせは本日と同じで構いませんわね?」

「もちろん。明日の朝もプリンツィパルマルクトは避けた方が賢明だろうから。」

「はい。それでは、今日の所はわたくし達が責任を持って貴方様をホテルまでお送りしますわ。その後は、アシスタシアを外から監視に就かせます。」

「それは頼もしい。助かるよ。」

「軽口を叩くようになりましたわね?フロリアン。」

 それまでの渋い表情から一転、いつものような笑みを浮かべてロザリアは言った。

 言葉を交わすとほぼ同時に3人は教会の出入り口へ向かって歩き出す。


 決意に満ちた彼らの後姿を、光の十字架より発せられる光は淡く照らし出していた。


                 * * *


 本棚と本棚の間に白い暖炉が有り、その上方には美しい景色が描かれた絵画が掲げられている。

 白い部屋にダークブラウンの調度品という対比が見事なコントラストを生み出すホテルの応接室をマリア達一行は貸し切っていた。

 アンジェリカから事件を起こすように仕向けられたとみられる〈5人の証人〉との対話を進める為だ。

 ホルテンシスの持つ能力を最大限に発揮する為には、人々の心に直接届く言葉選びを慎重に行う必要がある。

 その為に、まず事件を起こす〈発端〉〈きっかけ〉となった人物達の口から語られる内的側面の分析が急務であった。

 対象となる人物達の過去の記憶、経験、口から語られる言葉……それらの思いを知った上で逆算的に人々に呼び掛ける言葉を紡ぎ出そうという策略だ。


 時刻は午後6時。

 既に対象となる人物達の内、1人目の面談を終えた一行は次なる対象者の到着を待っていた。

「さて、次の対象者が到着するまで残り数分といったところだね。」未来を視通す目を持って、マリアは次なる人物の到着時間を確認した。

 部屋に置かれた上質なソファに腰掛けたまま、視線をすぐ傍に立つアザミに向けて続ける。

「ところで、例の件はどんな調子だい?」

「事は非常に順調に運んでいます。政府からの呼び掛けやネットのインフルエンサー達を利用した情報拡散。世代別で浸透率に差がありますが、着々と効力を発揮しているようです。まだデモに直接関与するような、確信的な人物達への情報到達はしていないものとみられますが。」

「宜しい。結構だよ。あまり拡散速度が早すぎるのも問題だ。次なる舞台が完全に破壊されるとアンジェリカが悟れば、それこそ何をしでかすか分からない怖さがある。彼女は私やロザリアと同じ特別な力を持つ人物だ。未来視や過去視による干渉も大した効力を発揮できない。能力による行動予測が難しいことに加えて、あの性格だからね。」

「まるで気まぐれ猫、ですね。」

「ははは、その例えはロザリアが言いそうなことだ。」 

「おや、彼女は猫好きでしたか?」

「私の記憶が正しければね。」

 マリアは笑いながら言う。猫好きだという意外な情報を聞いた三姉妹たちは興味津々といった面持ちでマリアへ目を向ける。

「あぁ、君達も興味があれば彼女に直接聞いてみると良い。そういった類の話なら気軽に出来るだろうからね。」

 そこまで言うとマリアはソファから立ち上がり、姉妹達を見て言った。

「ちなみに、これから来る人物はロザリアとも縁深い人物だ。だが、私達が彼女と懇意の仲であることは悟られないようにね。」

「承知しております。」3人を代表してシルベストリスが言った。

 マリアは優しい表情で頷き、今度はブランダへ目を向けて言う。

「次もいけるかい?」

「はい、大丈夫です。具合も、全然、平気だから。」

「そうか。けど、無理はしないようにね。」


 一行が対象者にとる手法というのは一種の心理カウンセリングのようなものだ。

 この街で起きている事件について警察からの調査要請を受けて様々な人物に話を聞いているという建前で話を進める。

 ある程度会話が整ってきたところで、ブランダが持つ異能を用い、対象者の記憶の奥底に封じられているであろう記憶を呼び覚ます。

 あとはその内容を話すように誘導しながら面談を進めていくだけだ。

 言ってみれば非常に単純ではある。ただ、この策略において核とも言えるブランダにかかる負担はかなりのものがある。

 連続で異能を用いることが出来るのはせいぜい3人が限界だろう。それを見越して、マリアは対象者との面談を今日の夕方に2人、残りは明日の午前中からというスケジュールを立てた。


「トリッシュ、ホルス。ブランダの様子を常に気に掛けておいておくれ。この役回りは、心の声を共有できる2人の方が良いはずだ。」

「もっちのろんです!ブランダが辛そうなそぶりを見せたら私がなんとかしますので☆きゃるん♡」

「良い返事だ。3人とも、頼りにしているよ。」

 マリアは満面の笑顔で姉妹達に言った。


 丁度その時、インターホンの呼び出し音が響く。コールの主はフロントだ。

「到着したみたいだね。」

 マリアがそう言う間にアザミがインターホンへと向かい応答する。

「はい。」

『失礼いたします。クリスティー様、お客様がお見えです。』

「どうぞ、中へ通してください。」

『承知いたしました。』

 アザミは終話ボタンを押し、フロントとの通信を終える。


 その後間もなく、部屋のドアをノックする音が響いた。

「どうぞ、お入りください。」アザミが言う。

 5人全員の視線がモダンな入口扉に集まる中、扉を開けて入ってきたのは1人の老男性であった。

 敬虔なる信徒、ローマカトリック教会の司教。

 トーマス・エルスハイマー。その人である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る