第十一話 おまじない、永遠の約束
香澄ちゃん、詩織ちゃん、藤原君、八神君の四人は忙しいみたいなの。
だから中々、私のお見舞いには来てくれなかった。
でもね、恋人?の宏之君は毎日、そう毎日、私でない私のところへ足を運んでくれていた・・・・・・。
彼は勉強大丈夫なのかなぁ?
だって、私達はいま受験生のはずなの、早く私も退院して宏之君と一緒に勉強頑張らないとね。そして、今日も私でない私の所へ宏之君はお見舞いに来てくれていたの。
~ 2004年8月13日、金曜日 ~
何にも変わる様子のない窓の外を私は眺めている。
『コン、コンっ』といつの間にかこの私、独りしか置かれていない病室の入り口をノックする音が聞こえてきた。
『ガチャッ』と音と一緒にね、その人が私の所へ現れてくれるの。
「アッ、宏之君!」
「ヨッ!今日も来てやったぞ。春香、元気してた?」
「うん、大丈夫!元気してたよ」
だけどね、本当は熱で少しだけ魘されている時があったの。でも、宏之君に心配を掛けさせたくなかった。だから、私でない私はそう言葉と一緒に大丈夫なような顔を作って見せてあげたの。
それから、少しだけ彼とお話をしていた。
最近、以前のように会話中、私でない私の意識が途切れるのが少なくなっていたの。
今も彼と会話中。
不意に私の心の奥底に隠れていた言葉を、宏之君と私を結ぶ大事な思い出の言葉を私でない私が彼に口にしていたの。
「ねぇ、宏之君・・・、覚えているかなぁ?」
「何を?」
「私が宏之君に告白した時、アナタと一緒に・・・、オマジナイ」
彼はどうしてなのかなぁ?感慨めいた顔を作って押し黙ってしまったの。
「ねぇ・・・、おまじないしよ。ねぇ・・・・・・しよ?」
いくら彼に言葉を聞かせても彼は何も言ってはくれない。
宏之君の方から、進んで行動してくれるように願って、暫く彼を見つめていた・・・。
でも、結局、優柔不断な彼が手を出してくれそうもなかった。だから、私の方から
「宏之君・・・、両手を出して」
私でない私は彼にその行動を強いるように自分からその手を出した、強制するように。
僅かばかりの時間、宏之君の表情には躊躇いのようなモノがのぞいていた。
でもついに私の両手に彼の指が優しく絡まってくる。
宏之君のその行動に対して私でない私の顔にホコロビが浮かびあがっていた。
「・・・、春香、嬉しそうだな」
「アハッ」
私でない私は宏之君の言葉に更に表情を綻ばせていた。
そんな表情の私を見た彼はまた沈黙してしまうの。
「じゃ、おまじない」
私でない私は宏之君から先に言葉を始めてくれるようにネガイながらそう彼に告げる。でも直ぐに彼はその意思を理解してくれなかった。でも・・・。
「・・・、目を静かに瞑り・・・・・・、これでよかったか?」
やがて彼の口からオマジナイの最初の言葉が綴られ始めました。
私でない私は声を出さないで表情で彼のそのオマジナイ始まりに柔らかく、そして、優しい微笑で応えていた。それから、私もそれに続くように言葉を綴るの。
「目を静かに瞑り・・・」
私で無い私の言葉に続くように再び、宏之君は次の言葉を言ってくれる。
「・・・、描いてごらん心の中に」
「描いてごらん心の中に・・・、」
「夜空に・・・・、瞬く星々を」
「夜空に瞬く・・・、星々を」
「どんなに時間を越えたとしても」
「幾星霜の時間を隔てても」
「その煌きは変りわしない」
「その煌きは変わらない」
「まるで永遠であるが如く」
「それは永遠であるように」
「キミのこころと解け合い煌めくオレの心」
「アナタの心と解け合い煌めく私のココロ」
「それはまるで夜空に煌めく星々のよう。それは私(キミ)と俺(アナタ)の永遠の約束かのように」
宏之君の言葉に追従するように私じゃない私が言葉を返す。
最後は彼と声が重なり合いそう言い終えたの。
すべての言葉を綴り終えると私でない私と宏之君の目に泪が零れていた。
どのくらいだろうね?
オマジナイを交わし終えてからこの病室に静寂が訪れていたの。
そして、それを破るように妹がここへ姿を現した。
「コンチィ、おねぇちゃぁ~~~ん。今日もお見舞いに来たのよぉ・・・?!柏木さん、何やってんですか!お姉ちゃんは怪我人なんだよっ!」
妹の翠は私でない私と宏之君が手の指を絡めているのを見、驚いた顔をしながらそう口を動かしていたの。
彼は少しだけ反応するけど直ぐ言葉を詰めてしまう。
「あっ、あぁ・・・・」
「人の目が届かない所だと・・・、本当に男の人って厭らしいんですねぇ」
「それは貴斗も含めてか?」
宏之君はそんな言葉を翠に返すと私に絡めていた指をほどき離してしまったの・・・、残念。でも、どうして彼は藤原君の事を口にしたのか分からなかった。
翠は宏之君が返した言葉に表情を顰めたまま、彼に強い口調で問いただそうとするの。
「柏木さん・・・、お姉ちゃんに何をしてたんですか?」
宏之君は妹の質問に何も答えなかった。
だけど、私でない私はそれをすんなり、そして簡単に聞かせていた。
「おまじないしてたの」
「えっ?一体何をお姉ちゃんに誑し込もうとしてたんですかアナタはっ!」
翠は怒りの感情がこもった声で宏之君にそんな風に口走っていた。
「ベッ、別にたいした事じゃない」
「永遠の約束のオマジナイ」
「ヴぇ!?」
妹は彼と私の言葉を耳にして驚愕の表情を浮かべ、そう口を動かし、声を出していたの。
「宏之君、アリガトウ、私とても安心したの」
私でない私はその時どんな表情を創り彼に言葉を掛けていたのかな?
「・・・ぁあ、そうだな」
宏之君がそう言葉を発すると妹は私でない私と彼を交互に見ながらやがて下唇を噛み締め、目元を泳がせていた。
「永遠?そんなもの有る訳ないじゃないですか、馬鹿じゃないの・・・、・・・・、・・・・・・、売店に行って必要な物を買って来ます」
来たばかりの翠はそう告げるとこの異常な雰囲気に包まれた場所から逃げて行くように出て行ってしまった。
それと入れ替わるように調川先生が診察にやってきたの。
「涼崎さんの妹さん、彼女、どうかなさったのですか?」
「どうと言われても、俺には分からないぜ・・・・・・」
「私は涼崎さんの診察を始めますのでアナタにはご退場、願いたいのですが」
「ハイ、判りました春香を御願い致します」
宏之君はそう言うとこの現世界と隔離された場所から撤退して行くの。
それを確認した調川先生が私に話し掛けてくる。
「それではいつものように診察を始めますよ」
そう確認して彼は診察を始めた。
調川先生の言う診察、私の体に聴診器を当てるとかじゃなくて、ただ会話で私の容態を聞いて来るだけだったの。
いま彼に鏡の中を覗きこむように言われている。
「貴女は自分の姿を見て何かお気付きになる事はありませんか」
私でない私はその中を覗きこみ自分の身体や髪をいじっていた。
「どうかなさいましたか?」
「・・・、別に何も変りないと思います」
現実的に三年間と言う月日が流れた私の身体に変化していないはずがない。
髪は伸び、目覚めるまで流動食だった身体は・・・。
しかし、私でない私はそれに気付いてはいなかった・・・・・、気付かない振りをしていたのかもしれないね。
それは現実を受け入れるのが怖かったから。
それじゃどうしてその現実を受け入れたくないのか・・・。
いまの私には答えを出す事はないの。そんなの望んでいないから。
調川先生の言葉が現実でない現実の中に引き戻す。
「・・・、そうですか何もないようですね。涼崎さん、コレで診察を終わりにします。何かあれば医局の方へご連絡御願いいたしますよ。それでは失礼します」
彼はそれを告げるとニコヤカに私に笑みを向けこの場を出て行った。
誰もいなくなったこの虚構の空間で私は外の風景を眺めている。
だけど、その景色を見ていても私でない私には何の感情も湧いてはこなかった。
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