第 二 章 固定された空間
第四話 恋人の親友
眠りについてしまってからどれだけに時間が過ぎてしまったのでしょうか?
ある日を境に私の恋人の宏之君は姿を見せなくなってしまいましたの。
その代わりに彼の親友であり、詩織ちゃん、私の親友の恋人、藤原君が毎日、お見舞いに来てくれています。
どうしてでしょうね?
闇にとらわれたままの私にはその理由を知ることは出来ません。
いつもこの疑問に悩まされています。どうして彼が毎日私の所に?
悩んでいるからって、別に苦悩しているわけじゃないの。
藤原君、彼はいつも人目を避ける様な感じで、誰もいない時に私の所へ来ていた。
彼は一言も言葉にする事なくただ私をじっと見詰めているだけだったの。
私を見ている時の彼の顔付きは何故か私を安心させてくれる。まるで宏之君がいるみたいに。
〈藤原君そんな顔を私に向けちゃ駄目、詩織ちゃんにして上げてよぉ~~~〉
たまに、とても深い溜息をついていたの。
その時の彼の表情は見えないけど見ている私の方がとても辛く思えるようなそんな彼の顔。どうして、そんな顔をするの、藤原君?でも、その答えを知る事は・・・・・・、私には許されないみたいですね。そして、今日も藤原君がココへ来ていたの。
「・・・・・・、ハァ」
顔色は変えないけど、彼は目を瞑りながら溜息をついていた。
それから後はただ私を優しい目で見詰めていたの。
暫くして、翠が戻ってきたみたいね。
「おねぇ~ちゃぁ~ン、戻ってきたよぉ~~~・・・、あっ!?お兄ちゃん来てたんですかぁ?」
「えぇっ、アァ、こんにちは翠ちゃん」
彼は気まずそうに妹に挨拶しているみたいだった。どうして、なのか妹の翠は藤原君の事をお兄ちゃんって呼んでいるみたい。
それほど親しくしてもらっているのかなぁ?でも余り彼に迷惑、かけちゃ駄目よ。
「お兄ちゃん、私がいない間にお姉ちゃんに変な事しなかったでしょうねぇ~~~クククッ」
〈こらっ、翠、何て失礼な事を藤原君に言うのよぉ、謝ってよぉ〉
「ハァーーーっ、翠ちゃん、キミと一緒にしないで欲しい」
「ムゥ~~~、何でそんな事、言うんですかぁ~~~」
〈藤原君、鋭いのねぇ〉
「翠ちゃんの行動パターンから推測」
「フンッ、お兄ちゃんのバカ」
「はい、はい、そうですか」
彼は呆れた顔付きで妹にそう答えを返しているようだった。
「お兄ちゃん、そんなところで突っ立ってないでもう少しお姉ちゃんのそばに来て上げたらぁ?」
そうなの。妹が口にするように、いつも藤原君は私から少し距離を置き見ているだけだった。すぐそばには来てくれたことなかったの。
「お兄ちゃん、この椅子にすわってっくださぁ~~~~いっ」
翠は私のそばに折りたたみの椅子を用意し彼にそう促していた。
「遠慮する」
だけど藤原君、彼は淡々とそれを拒否してしまったの。
「ムッ#」と妹はそんな彼を睨んで顔を膨らませていた。
「わかった」
妹に睨まれた彼はまた淡々とした口調で言葉を返していたの。
藤原君がそばに来てその椅子に座ってくれた。
彼は私に穏やかな笑みを送ってくれたの。
ココロが安らいでいく、そんな笑みを私に向けてくれた。
藤原君は少しの間そんな表情を私の向けてくれていた。
翠はそんな彼を唯じっと見守っているだけ。
暫くして藤原君の口が動き出したの。
「・・・、翠ちゃん、涼崎さんの手を・・・、握って上げてもいいか?」
「エッ?・・・・・・・・・、ハイ」
「・・・、すまない」
藤原君はそう言葉にしてから私の右手を優しく包むように握ってくれた。
彼の手から温かいけどどことなく切ない感情が流れてくるような、そんな感じがしたの。
その時、彼の感情が闇の私の中に、流れ込んできたような気がしたの。とても、切なく・・・、そして、とても悲しい。
私には其れが何であるのか、判ってあげられないし、言葉を返してあげられないけど、彼の心に共鳴した私は、暗闇の中で哀憐の涙を流していたの。
もしかして、それは今も失われている彼の記憶の一部なのかもしれない。
そう、彼の眠ったままの過去を垣間見てしまったような気がした。
それからどれ位の時間がたったのかなぁ?彼はその手を外し、
「邪魔したな、帰る」
といって翠と私をこの空間に残し去って行ってしまった。
藤原君、彼は本当に毎日・・・、毎日、私の所へお見舞いに来てくれていたの。
どうしてかはわからない。いつかその理由を知ることが出来るのかな?
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