第三話 一 方 通 行

 季節は夏から秋に代わりそして冬へと移行していた。しかし、春香にそれを知る術を与えられていなかった。

 冬、外気が人の体温を下げて行くように心の中も下げてしまうそんな季節。だが、今、春香のいる空間は何処となく恥ずかしさの空気で暑くなっていた。

 今日は詩織ちゃんがお見舞いに来てくれていた。

 いつもの様に何も出来ない状態で彼女のお話を闇の中で聞いているだけ。

 翠は毎日、私の所に来てくれている。妹が無理していないか心配、大丈夫かなぁ?

「春香ちゃん、お見舞いに来てさしあげましたよ」

「アッ、詩織センパァ~~~~イ。こんにちは、ですぅ~~~」

「翠ちゃん、こんにちはいつも元気がよろしいようで。フフッ」

「今日も元気いっぱいですぅ!ッて、さっきお会いしたばかりじゃないですかぁ~」

「フフッ、そうでしたね。お元気が良いのは宜しい事ですが余り無理をしないでください。翠ちゃんが倒れてしまいましたら春香ちゃん、悲しみますから。私もそうですが無論、貴斗君もですよ」

「エッ、貴斗さんガデスカ?」

「そうですよ。貴斗君、顔にはお出しになりませんけど昔からとても心配性なのです」

「ふぅ~ん、そうなんだぁ。アッ、それより今からお姉ちゃんの体、拭き拭きするんですけど」

「それでは私もお手伝いさせていただきますね」

「はぁ~~~いですぅ」

 妹と彼女は私の身体を労わるよう丁寧にキレイにしてくれた。

 その後はいつもの手順で私の体のストレッチ。

「ハイッ、コレで全部しゅーりょーでぇ~す。お疲れ様でした先輩!」

「フゥ~~~」

「どうしたんですか溜息なんかついちゃってぇ?」

「春香ちゃんの身体綺麗だなぁ~~~ってお思いしただけです」

「!??????????????」

〈・・・・ナななナッ、何言ってるのよ、詩織ちゃん、へっ、変な事、言わないでよぉ~~~。そんな事ないもん、絶対詩織ちゃんの方が綺麗だよぉ〉

「・・・、女の性なのでしょうね・・・、他の人と自分の身体を見比べてしまうのは・・・・・」

 親友はそれだけ言うと顔を赤らめてしまったの。

「詩織先輩・・・・、贅沢ですぅ」

「翠ちゃん?今、何か申されました?」

「・・・何でもないですよ、ムッ」

〈翠、自分の小さい体を気にしているのね。でも大丈夫、そのうち大きくなるから・・・、保障出来ないけど、ハハッ〉

「アッ、私、詩織先輩が持ってきてくれたお花、活けてきますぅ」

 翠はそう言葉にすると私の部屋から出て行ってしまう。

 妹が出て行ってしまった後、詩織ちゃんが話しをかけてきた。

「ネェ、春香ちゃん。私、今日はですね、お花の中にスノードロップと言いますお花をお混ぜして見てみました。春香ちゃん貴女ならこの花言葉お判りになりますよね」

〈・・・ウンっ、判るよ。有難う詩織ちゃん〉

 詩織ちゃんとの共通の趣味、占いや花言葉。

 女の子だったら一度くらいは興味を持ってもおかしくないごく有り触れた趣味。

 そんな事はしないよぉ~~~って人にはごめんなさいね。

「アハハッ、ねえ春香ちゃん?少しお惚気てしまっても宜しいかしら」

〈ハハッ、藤原君の事ネェどんな事かなぁ?〉

「ネェ、春香ちゃん以前、柏木君とキスしたってお言いになりましたよね。ソッ、そのどのくらいしたのでしょうか」

〈!?何聞くのよ、詩織ちゃんそんな事を言えるわけないじゃない・・・・・週に一、二回くらいは・・・、ポッ〉

「って、申して見ましたけど答えてはくれませんよね。こっ、この前のですね、クリスマス・イヴであっ、あのその・・・、貴斗君と初めてその・・・ファーストきっ、キスをさせていただいたのです。貴斗君、鈍感だからそのようなムードまで持って行きますのが大変だったのですよ。でもね、貴斗君、私の期待、裏切りませんでしたからとても嬉しかったです」

〈・・・、いいなぁ~~~、何か凄くロマンティック。詩織ちゃんお淑やかそうな顔して結構大胆なのね・・・、ハハッ、それと詩織ちゃん大変そうだねぇ。そのてん宏之君は大丈夫・・・・・・はぅ、私、何を言っているんだろぅ〉

 詩織ちゃんの一方的な会話が丁度一区切りついた頃、妹の翠は戻ってきた。

「おねぇちゃぁ~ん、詩織センパァ~イィ、ただいまですぅ」

〈お帰り翠〉

「フフッ、お帰りなさいませ。そろそろ、お家に帰って勉強でもしませんか翠ちゃん」

「はぁ~~~いですぅ」

「春香ちゃん、それではまたお見舞い参りますね、それでは」

「おねえちゃん、まったあっしたぁ」

 二人はそう帰りの挨拶を残すとこの空間から消えて行ってしまった。

 彼女達が居なくなってしまったら何だか急激に当たりの温度が落ちてしまった気がするの。

 季節はまた冬から春に移り人々は新しいスタートラインに立とうとしていた。春香以外のすべての人が・・・。

 彼女はこの月の半ばごろに18歳の誕生日を向かえていた。

「ハッピーバースデーですぅ」

「春香ちゃん、お誕生日オメデトウ、御座います」

「祝福」

「・・・貴斗さん、それお祝いの言葉と違いますよぉ」

「祝辞」

「それも違います」

「祝詞」

「貴斗さぁ~~~ん若しかして態とやってませんかぁ~~~素直におめでとうって言えないんですかぁ?」

「俺は大マジの積りだが」

「ハァー、本当に貴斗君ったら、もう少し言葉をお選びした方が宜しいのではなくて?特に女性に対しては」

「ムッ#」

〈ハハッ、詩織ちゃん、厳しい〉

 私は、誕生日を祝ってくれた三人に感謝の思いで胸がいっぱいになってゆくのを感じた。

 今日は18回目の誕生日のようですねぇ。本当に今日がその日なのか分かりません。でも、とても嬉しい事です。香澄ちゃんと宏之君が来てくれていないのはどうしてでしょうか?とても残念です。

「おねぇちゃぁ~ん、私はお子様なので何も差し上げられませんがパパとママからプレゼント、預かってきましたよぉ~~~」

〈ゥん、ゥん、いいの、翠気持ちだけで充分、有難う〉

「わたくしは貴斗君とご一緒に買いましたプレゼントです。アンティークなブックマーカーのセット。お選びしましたのは貴斗君ですよ、フフッ、とてもよろしいセンスですのでお早めに見ていただきたいです」

「詩織、余計な事を言うな」

「別によろしくてはないのですか?減るモノではなくてよ」

「ムムッ###」

〈有難うねぇ、詩織ちゃん、藤原君。早く見てみたいなぁ、藤原君一体どんなもの選んでくれたのかぁ楽しみです〉

「今日もお花お持ちいたしましたよ。その花束の中に紫雲英(ゲンゲとも発音します)と言います花をお混ぜしました。今の貴女には似つかわしく思いますが春香ちゃんの誕生花なのでお添えして見たのです。時期が一月早いので手に入れるの、苦労したのですよ」

〈・・・、紫雲英の花言葉は確か・・・ハッ!?〉

 闇の中で本当に嬉しくて詩織ちゃんやみんなに感謝して私は泪を流してしまったみたい。

〈有難う・・・、本当に有難う、今こんなじゃなかったらみんなに抱きついてお礼したかったのに、でも今の私にはどうする事も出来ないのね〉

 詩織ちゃんと翠、私を含めて楽しい一方的な談笑をしていました。

 藤原君は居心地が悪かったのか途中で言葉を残して出て行ってしまうの。

「俺ちょっと、医局に用事があるから、暫く席を外す」

 そして、彼は誰の反応も聞かずここから出て行ってしまった。

 藤原君の戻ってきた頃は詩織ちゃんも翠も帰る準備をしている事でした。

「おねぇちゃぁん、合格ですぅ!」

〈翠、合格オメデトウ〉

 今日は妹の高校合格発表があったようですね。

「合格発表の掲示板中々見れなくて大変だったんですよぉ。その時ですぅ、貴斗さんが・・・、とても大胆な事するから・・・・・・・・・」

 翠はそこまで言い終わると頬を幾分上気させていたみたいなの。

 とおもっていたら急にダウン。

「ハァ~、貴斗さんは私の事、女の子だと思ってないのかなぁ、何だかとってもガックリですぅ」

〈ハハッ〉と私は闇の中で思わず苦笑してしまったの。

「えへへっ、だからその腹癒せに貴斗さんのお財布の中身をスッカラカンにしちゃってあげましたぁ~~~~」

〈・・・・・・、ハァ~~~~~〉

 呆れて何も考えられなかったの。そして、いくらか妹が私に話しかけた後、いつものように体をキレイにしてくれて、ストレッチをしてくれました。

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