第22話

「怖いでしょうね。よく一緒に行くことを了承してくれたものだと思います。しかしあの化け物は、絶対に諸星さんを襲うようなことはしません」

「えっ?」

「あなたには不思議な力があります。そのためにあいつはあなたを襲いません。というよりも襲いたくても襲えない、と言ったほうがいいかもしれないですね」

「そうなんですか?」

「そうです。あなたは自分の力に気がついていないようですけど、私なんかよりもずっとこの仕事に向いていると思います。それだけの素質があります。特殊な力を感じます。でもどれだけ見ても、まだわたしにはその力がよくつかめていません。どんな力なのかが、わからないんです。こんな力、ごく限られた人しか持っていません。だから怖がらないでください。自信を持ってください」

「そうなんですか」

諸星には野上の言ったことがよくわからなかった。

しかしあの化け物が自分を襲わないと言った野上の言葉は、本当のような気がした。

事実前回、あの化け物は諸星の目の前まで来たが、何もせずにその場を去ったのだ。

「それじゃあいきますよ」

野上と諸星は車に乗り込んだ。


しばらく走った。

郊外に行っているようだ。

――どこに行くのだろう?

野上が考えていると、車が停まった。

目の前に何かある。

暗くてよくわからないが、どうやらお寺のようだ。

野上が車から降りた。

諸星が続く。二人して中に入った。

「ここは?」

野上はランタンを三つほど並べてから言った。

「見えにくいでしょうけど、ここはお寺ですよ」

やはりお寺だった。

「そうですか。そういえば仏教派と言ってましたね。野上さんのお寺なんですか」

「いいえ、私はお寺には属してないんです。仏教派ですが。ここは知り合いのお寺です。この時間は誰もいないし誰も来ないんです。ですからここで化け物になったさあやを消滅させるんです」

「ここに来るんですか」

「呼びます」

「呼ぶんですか?」

「そうです。あいつの中にはわずかながらさあやの部分が残っています。それに呼びかければ、きっとここに来ます」

「そうなんですか」

「今から呼びかけます」 

そう言うと野上は座禅を組み、その手は印を結んだ。

そのまま動かない。

何も言わない。

諸星は野上をただ見ていた。

野上はまるで置物のように動かないし、自分はどうすればいいかまるでわからず、諸星は困惑していた。

野上の言うことが本当ならば、あの化け物はここに来る。

今何をすればいいのかわからないが、あの化け物が来たら何をすればいいのかもわからない。

そして今諸星にできることは、じっと野上を見ることだけだった。

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