第23話
どのくらい経ったのだろうか。
時間の感覚がおぼろげだ。
――あとどのくらいかかるんだろう?
諸星がそう考えていると、不意に野上が立ち上がった。
「来ます」
その短い言葉を言い終わるか終わらないうちに、現れた。
首だけの女が。
野上はいつの間にか手に細い棒を持っていた。
その棒で首の女を叩いた。
反応があった。
女の顔に苦悩の色が浮かんだ。
野上はもう一度、棒を首の女に叩きつけた。そして言った。
「さあや、呼んだら来てくれたのね。そこにいるんでしょ。今私はあなたを取り込んだ邪悪なものと戦っているわ。あなたもいっしょに戦って」
野上はもう一度棒を首に叩きつけようとした。
しかし首の女はさらりとそれをかわした。
野上が再び言った。
「さあや、いるんでしょう。助けてよ。私と一緒に戦ってよ」
野上は立て続けに首に向かって棒を振り下ろした。
が、首は野上から離れないまま、それを全てかわした。
「さあや、聞いてる。私の声が聞こえる。一緒に戦いましょう。この化け物と」
首の女が野上から離れた。
そして口を開けた。
前と同じく後頭部の一部の皮でつながっている状態で、女の頭が上下に分かれた。
さらに口は大きく広がり、そこには鋭角な歯がずらりと並んでいた。
諸星がそれを見るのは二度目だが、野上は初めてだった。
かつての友人の変わりように戸惑いながらも、野上が言った。
「さあや、聞こえる。聞こえてる、私の声。さあや」
すると首が野上に突っ込んできた。
野上は棒でそれを防いだ。
首の女の顔に、再び苦悩の色が浮かぶ。
しかしそれはほんの一瞬のことだった。
首は棒にかみつき、野上の手から棒を奪い取った。
そしてその棒を遠くへ吐き出した。
「さあや、お願い。一緒に戦って」
首がすうっと上に上がった。
しばらくとどまり怖い顔で野上を見ていたが、やがてすざましいスピードで野上に向かっていった。
野上はとっさに避けたが、首はそれを読んでいたかのように野上の頭に食らいついた。
――!
次の瞬間、嫌な音がして首の女が野上から離れると、野上の首がなくなっていた。
首をなくした野上は、ゆっくりと地面に倒れこんだ。
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