第21話

――二人でやるしかないか。

野上と諸星。

それなりの力のある霊能者と、なんだか特殊は力を持っていそうだが、それが何なのかは本人はもとより、野上でさえよくわからないというど素人。

この二人でやるのだ。

気が重いなんてものですまない。

はっきり言って怖い。

しかし勝ち目がないわけではない。

今はほとんど活動していない小さな善の部分。

つまりさあやの部分だが、これを目覚めさせて味方につければ、悪霊を中からかき回すことができる。

そうすれば勝ち目はぐんと上がるのだ。

そうするしかないようだ。

野上は一息吐くと、諸星に連絡した。


電話が鳴った。

仕事中だが出た。

相手は野上だった。

「諸星さん、今夜やりますよ」

「わかりました」

「それじゃあ家まで迎えに行きますね」

「はい、お願いします」

電話を切ると、上司がいつの間にか真後ろに立っていた。

「また私用電話か」

「いや、お得意様です」

「嘘をつくな。毎日毎日何度も何度も私用電話ばかりしやがって。もう数百回にもなるだろう」

数百回だって。

この会社に入ってから数回は私用電話をした覚えがあるが。それがいつの間にか百倍くらいになっている。

こいつの観察力や判断力はその程度のものなのだろう。

と言うよりも、人格のほうに問題があるのか。

何度も文句を言う上司の言葉をすべて否定していると、上司は大きな声で捨て台詞を残して自分の席に戻った。

自分の席に戻っても、ずっと諸星を睨み続けている。

私を睨んでいる暇があるなら、仕事しろ。

ずっと手が完全に止まっているぞ。

毎日残業しているのに。

諸星はそう思った。


家に帰ってありあわせの夕食をすませると、呼び鈴が鳴った。

でるとやはり野上だった。

「行きます。お願いしますね」

「どこへ行くんですか。私はどうすればいいんですか」

野上は少しの間黙っていたが、やがて言った。

「行く場所は人気のないところ。諸星さんが何をするのかは、私にもまだよくわかっていないです。でもその時が来たらちゃんと言いますから。とにかく近くにいてください」

「……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る