第20話

またか。

刑事はもはや諦めかけていた。

今度は若い男だ。

しかも刑事はその男をよく知っていた。

というよりここの住人の多くがその男を知っている。

全日本空手選手権三連覇の有名人。

この地方都市では町のヒーローと言っていい存在だ。

そんな男がたいした抵抗をした様子もなく、首を切られてしまっているのだ。

一体相手はどんなやつなんだ。

どんな方法で首を切っているんだ。

高校生も背の高いアスリートだったし。

並の人間なら一人ではまず殺せない。

そうかと言って大勢で動けばそれだけ目立つことになるし、証拠や痕跡を残す可能性が数段上がる。

それなのにいまだ目撃者はゼロで、証拠も痕跡も一切見つかっていない。

つまり何一つわからないのだ。

これだけの無差別殺人。

誰かの怨恨という可能性もない。

いったいこれ、どうしてくれよう。

――また署長から呼び出しがあるな。

最近の署長はきわめて機嫌が悪い。

まあ、当たり前と言えば当たり目なのだが。

――ひたすら頭を下げるしかないか。

今の刑事にはそれ以外思いつかなかった。


野上は朝のニュースで見た。

五人目の犠牲者。

それも全日本空手選手権三連覇の、この地では結構な有名人だ。

番組では、こんな強い男の首をどうやって切ったのか、という話題になっていた。

野上は思った。

もはやただの悪霊ではなく完全に化け物となってしまったさあや。

そんな化け物に力で勝てる人間なんて一人もいないだろう。

格闘技の強さや腕力の強さは、あの化け物の前では完全に無意味だ。

とにかくなんとかしないといけない。

なのに一番頼りにしていた人に断られてしまった。

要するに怖くて逃げたのだ。

――あの女、さあやのことをよく知っているし、さあやに次ぐ友人だと思っていたのに。もう完全に絶交だな。

もうひとつさらに強力なあてがあったが、あそこはまずい。

少し前に野上が思わずやらかしてしまって、今は連絡がとりづらくなっている。

――あれはほんと、失敗したなあ。悪気はなかったんだけど。

えてもしょうがない。

いないものはいないのだ。

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