第19話

――!

最初はただの女だと思っていた。

しかしよく見れば首から下がない。

首だけの女が宙に浮かんでいるのだ。

――えっ?

すると少し離れたところにいた女の首が、一瞬で男のすぐ目の前に来た。

――!

男は反射的にその顔面に拳を叩きつけた。

練習を含めると、今までに何万回と叩き込んできた正拳突きだ。

――いてっ!

しかし女の顔は、男が思っていたよりもずっと硬かった。

人間の女性の顔を殴ったとはとても思えないほどに。

まるで鉄か岩でも殴ったように感じた。

おまけに殴られたはずの顔には、傷一つついてない。

あの距離で男に殴られたのなら、目に見えるほどの傷がついているはずなのだが。

――何なんだこいつは。

男の中にいまさらながら恐怖の感情が沸き上がってきた。

その時、女が口を開けた。


――まただ。

野上は感じた。

しかしこれまでとは違う。

相手の正体がわかったのだ。

野上は小さな善の部分に意識を集中させた。

そして感じた。

――やっぱり。

少し懐かしい。

さあやだ。

間違いない。

なぜ今まで気がつかなかったのだろうか。

次に悪しき部分に意識を向けた。

前回五人の命を奪い、解放されてから今まさに五人目の命を奪おうとしている存在。

邪悪だった。

それ以外の要素が全くなにもない。

いくら悪霊でもここまで何から何まで邪悪ではないのが普通だ。

善の部分はさすがにないが、悪でもない部分が少しはある場合が多い。

こいつにはそれさえもない。

全てが邪悪であるがゆえに、その力も強力なものになっているのだ。

――やはりやっかいな相手だわ。さっさとなんとかしないと。

今襲われている人間は、かわいそうだがまず助からないだろう。

やるべきことはこれ以上の犠牲者を出さないことだ。

野上はさっそく行動を開始した。

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