第15話

それも不思議だ。

上司がそうしているのだが、日によっては早くなったり遅くなったりしてもいいはずなのだが。

仕事量が毎日完全に同じだなんて考えられないのに。

まだ若い諸星は、全体の仕事量を上司ほど把握はしていないが。

とにかく今日の仕事は終わり、諸星は会社を出た。

いつもの電車に乗るが、行先は二つほど先の駅だ。

いつも通りの時間に終わったので、約束の時間には間に合いそうだ。

二つ先の駅で降りて、そこからは歩く。

この時間も怖いが、そんなことを言っている場合ではない。

目的の場所に着いた。

マンションの一室。

約束の時間よりも少し早かったが、諸星は呼び鈴を押した。

「はい」

ドアが開けられた。

そこにいたのはまだ若い女だった。

たしかに電話の声も若かったが。

「約束していた諸星ですが」

「はい、どうぞお入りください」

入ってすぐが応接室だった。

促されて椅子に座る。

「お茶をお持ちしますね」

野上は出てゆき、しばらくしてお茶を二つ持って帰ってきた。

お茶を置き、諸星の前に座る。

「それで、どういったご相談でしょうか」

諸星はここに来て一瞬迷ったが、言った。

「あのう、連続首狩り殺人、知ってますよね」

野上は正直驚いた。

諸星がまったく予想とは違うことを言ってきたからだ。

だいたいここに来る人は、不幸が続くとか幽霊が出るとか、そういったものが多いのに。

野上が気にしているあの事件のことを言ってくるとは。

その意図がまるでわからない。

少し間があったが、野上は言った。

「ええ。もちろん知ってます。あれほどの大事件で、しかも同じ市内で起きていますからね」

「私、あの犯人を見たんです。それも生きている人間じゃありませんでした」

野上はしばらく諸星を見つめてから言った。

「それはいったいどういうことですか。詳しく聞かせてくれませんか」

諸星は話した。

あの日みたことの全てを細かく。

聞いている野上の目はどんどん見開いていった。

諸星の口調はとても嘘を言っているとは思えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る