第10話

仮に犯人だとしたら、男子高校生の首を瞬時に切断する何かの道具を持っているはずだが、諸星は持っていなかったし近くにそんなものも見つからなかった。

――何なんだろうね。

刑事は気にはなったが、結局諸星を帰すことにした。

犯人とは思えない人間にかまっている暇はないのだ。


野上は朝のニュースで知った。

三人目の犠牲者。

近くの高校に通う男子高校生だ。

部活の帰りだったらしい。

最初は中年の男性。

次は中年の女性。

そして男子高校生。

相手は特定の人間を襲っているわけではないようだ。

言わば無差別だ。

野上は犯人を感じながらもその正体に迫れないでいることで、自分に対して腹を立てていた。


世間もマスコミも大騒ぎだ。

それはそうだろう。

連続首切り殺人事件なんて日本では初めてだ。

ひょっとしたら世界でも初かもしれない。

自分はその目撃者となったのだ。

犯人を、殺害の瞬間を見てしまったのだ。

もちろんそれは誰にも言わない。

友人や家族にさえも。

でも死体の第一発見者ということは、友人、家族、近所、同僚にも知られてしまった。

多くは遠慮して直接は聞いてこないが、中には「どうだった」と聞いてくる人もいた。

聞いてこない人も、いつもは向けない視線を諸星に浴びせてくる。

――これは、本当に。

あんなものを見てしまった上に誰にも言えないというのに、周りの人間の好奇な目にさらされてしまう。

諸星は参っていた。


少女は困っていた。

少女の通う学習塾は他の学習塾に比べて従業の開始時間が遅い。

そして当然ながら授業の終わる時間も遅いのだ。

そこに近くで起こった連続首切り殺人。

被害者はみんな夜歩いているところを襲われている。

もちろん学習塾内でも大きな話題となっていた。

学習塾に来なくなった人が何人かいた。

来ている子も前は一人で来ていたが、今はみんな親の送り迎えがある。

二十数人の生徒の中で、一人で通っているのは今や少女一人になってしまった。

まだ中学生の女の子に、こんなにも危険なことをさせるなんて。

当然少女は親に抗議をした。

しかし父親はずっと知らん顔で、母親は「なにわがまま言ってんの」とか「塾に行きたくないだけでしょ」とか大きな声で言うだけ。

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