第8話

成人男性ならともかく、路上で女性を襲うような少年は、この日本にはほとんどいないはずだ。

諸星は少年の後をついて歩いた。

一人で歩くよりも怖くはない。

少年が次の角を曲がった。

方向が同じだ。

諸星も角を曲がった。

すると少年が目の前で立ち止まっていた。

「えっ」と言う小さな声が少年の口から聞こえた。

なんだろうとよく見て、諸星は驚きのあまりに固まった。

少年の目の前に女の首が浮かんでいたのだ。

いくら見ても体はどこにも見当たらない。

やけに青白い顔で長い黒髪。

そしてかなりの美人だ。

その美しさがこの女への恐怖を倍増させている。

動けないまま見ていると、女の口が開いた。

とても大きく。

耳まで裂けていると言った程度ではない。

後頭部のごく一部がつながっているだけで、女の上あごと下あごは大きく開いた。

それだけではなくて、女の口は左右に広がった。

そこには鋭い三角形の牙がずらりと並んでいた。

そして女は少年の頭にかみついた。

少年の頭は完全に女の口の中に入ってしまった。

ぶしゅっ。

耳に嫌な音が響き、女の頭は少年から離れた。

少年の首から上がなくなっていた。

その間、あっという間だった。

少年はゆっくりと倒れて、地にふした。

女が諸星を見た。

最初は何の感情も読みとれない顔だったが、なぜか少しの驚きの色を見せたかと思うと、首の女はふらりと移動して、その場から去った。

諸星はしばらく動けず声も出せずに人形のように立っていた。

が、やがて絶叫した。


――まただ。

野上はまた感じた。

同じものを。

これで三回目だ。

急がなければならない。

今は強いが、それがだんだんと薄く淡いものになっていく。

だから思いっきり集中した。

こいつは何なのだ。

いったいどこにいるのだ。

ずっと集中したいたが、やがてそれを感じなくなっていった。

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