第7話

それは普段の言動から見え見えだった。

お前らは俺の評価を上げるための道具なのだから、必死で頑張れ。

俺のために強くなれ。

もちろんはっきりとそう言うわけではないが、何を言ってもそうとしか聞こえなかった。

そう少年は感じていた。少年だけではない。

バスケットボール部の部員の全員がそう感じていたのだ。

いくらうわべをつくろっても、高校生ともなればそれぐらいのことは感じ取ることができる。

この半年くらいで何人かの部員が辞めた。

これ以上辞められると、一チームの人数分すらいなくなってしまう。

そこで先生はいろんなところに声をかけて新入部員を募っているが、先生自身の評判があまりにも悪いので、なかなか新入部員が集まらないでいる。

それで残っている部員にさらなる重圧をかけているのだ。

逆効果にしかならないというのに。

少年は近いうちにバスケットボール部を辞めようと考えていた。

それはもう決めたことだった。

それに少年には気になることがあった。

最近騒ぎになっている首切り殺人事件。

割と近い町で起こった。

夜に一人で歩いていた人が狙われたそうだ。

首切り殺人なんて少年にはまるで実感がわいてこないのだが、そうかと言って自分と完全に無関係であるかと言えば、そうとは言い切れない。

部活が終わって夜一人で帰宅していたら、殺人鬼に命を狙われる可能性だって十分あるのだ。

そう考えるともともと嫌だった部活が、さらに嫌になった。

――もう辞めよう。

少年は改めて決意した。

 

諸星明美は今日も帰りが遅かった。

ここのところ毎日なのだが。

駅から歩いて家に帰る。

二十分ほどだが最近はその時間がやけに長く感じられて仕方がない。

しばらく歩くと大通りから離れて人通りの少ない細道に入る。

ここから家まで十分ほどだが、その十分が問題だ。

ひょっとしたら今日、自分が首なし死体になるかもしれない。

諸星は本気で考えていた。

ここは本当に誰もいない。

そう思っていると、前のわき道から誰かが出てきた。

一瞬心臓が止まるかと思うほど驚いたが、その人物は諸星の前を普通に歩いている。

後ろ姿だが、学生服を着ているのがわかった。

細身だがけっこう背が高い。

どうやら高校生のようだ。

右手にボストンバッグを持っていた。

おそらく部活の帰りなのだろう。

見知らぬ少年だが、それでも諸星は安心した。

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