第6話

――そうなると、少しやっかいよね。

野上がそれを強く感じる時は、殺人が行われている最中だろう。

するとこれほどまでに小さくなってしまっている今、本気で正体を探ろうと思えば、どう考えても次の殺人を待つしかない。

きわめて不本意ながら。そう考えているうちに、野上は誰かが言ったことを思い出した。

小説に登場する探偵は、殺人の数が多ければ多いほど犯人を特定しやすくなる、と。

そう今まさにその状況なのだ。


諸星明美は悩んでいた。

いや怖がっていたと言った方が正しいだろう。

ここ最近起こっている連続殺人事件。

それがわりと近所で起こっているのだ。

二件ともに。二人とも夜に路上で殺されている。

同一犯人ならば、というより同一犯人としか思えないのだが、同様の犯行を更に続ける可能性が高い。

そして諸星は、最近帰りが遅い。毎日残業だからだ。

電車で会社に通っているのだが、ここのところ駅を降りて自宅に着く時間が午後九時を過ぎているのだ。

そして自宅まわりはニュースで見るかぎり、諸星も自宅の近くとなんとなく似ているのだ。

まああんな町並みは、日本中のいたるところにあるのだろうが。

不安に感じて上司にそれとなく言ってみたのだが、はっきりと言ったわけでもないのに上司が言った。

「まさかおまえ、この忙しいのに首を切られるかもしれないので、毎日早く帰りたい、なんてふざけたことを言うんじゃないだろうな」

普段はまるで仕事ができないのに、こういうところだけは妙にカンがいい。

「いえ、そういうわけではないんですが」

「とにかく忙しいんだから、速く帰りたいなんてわがまま言うな」

諸星は引くしかなかった。

今日も帰りは遅くなるだろう。

やっぱり怖いが。


少年はいつも帰りが遅かった。

それは部活が現任だ。

学校にナイター設備がないため野球部なんかは暗くなったら練習をしたくてもできないので、必然的に帰ることになる。

しかし少年が所属しているのはバスケットボール部だ。

屋内競技。

とうぜん体育館には照明がある。

それで毎日遅くまで練習をしている。

結果帰りが遅くなっているのだ。

遅くまで練習をしている原因は、顧問の先生にある。

とにかくこの高校のバスケットボール部を強くしようと、躍起になっているのだ。

顧問の先生が躍起になっている理由。

それはいくつかパターンがある。

自分の受け持つ運動部を強くしなければいけないという使命感に燃える先生もいるだろう。

生徒たちを少しでも強くしてやりたいと思う先生もいることだろう。

しかしうちのバスケットボール部の顧問の先生はそんなものとはまるで違う。

自分の受け持つバスケットボール部が強くなれば、自分の評価が上がると考えているのだ。

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