第2話
学生たちは、月初めの座学で当月の造形課題を学ぶ。噴水の造形の場合は、以下が手順となる。
はじめに、岩の加護ある精霊の力により、地面を盛り上げ、内部が中空の脈路を持つ岩を作り上げる。次いで、土の加護ある精霊の力で、その岩を取り囲み粘土による造形を与える。そして、火の加護ある精霊の力で、その粘土を焼き固め、表面に滑らかで流麗な紋様を施し、噴水造形ができあがる。最後に、水の加護ある精霊の力を噴水に与えることで、流麗な水の噴き出しが実現し、ひとまずの完成となる。水の動きに華を与えるがために、さらに風の加護ある精霊などの力を借りることもある。
しかし、岩、土、火、風、水、などに大別される聖霊の加護のそれぞれには、個性がある。大多数の生徒は1種類の精霊の加護しか受けていない。毎月の演習では、月の半ばまでに学生たちは当月の
工芸品の造形における多くの工程は、岩の加護ある聖霊と土の加護ある聖霊の力に、よって担われる。岩や土など
そんなこともあり、本日の演習庭でも、多くの男子学生たちが、この系列の岩の加護ある精霊は、この系列の土の加護ある聖霊と組み合わせるのが良いといった議論に熱を上げている。世の法則性を司る、
他方、火、風、水など
同じ
午前のうち、カンデは、学生たちの造っては壊しの、造形の様子を見ながら学生たちの間を歩く。学生が筋よく中が
午後の早くに、学生たちはグループに分かれ、順々に作り上げた造形の発表を行っていく。カンデは、一つ一つの造形に合わせて水飛沫を飛ばしてあげる。学生たちは、水飛沫が飛ぶたびに歓声を上げたり拍手をしたりした。演習の終わりに学生たちに改めて挨拶し発表の講評をしたカンデは、昼の仕事を終えた。
☆
工芸院を出たカンデは、《フライ》の魔法を唱え、南の森に向かう。
眼下に森の大岩が見えてきた。カンデは、《フライ》を弱め、大岩の側に降り立つ。
大岩が、
フラージアの脇に立ちながら、カンデは、
「怪異たちを彫刻するのが最近のテーマなのかい。」
と聞く。
「あぁ。風の加護の精霊を賜りながらも、私は、撃って穿てば血が出る怪異を狩るのは、どうしても苦手なものだから。代わりに、一度怪異たちの身になったつもりで怪異を岩に彫ってみようかと、思ったんだ。世界で初めての鑑賞者として、見てやってくれ。」
と、フラージアは答えた。
カンデは、迫力ある岩の造形物が動き出すさまが思い浮かぶほどに、風の加護を受けた作品を眺め続けた。
日が西に傾いた頃、フラージアは、アイテムボックスに今日の造形を与えた精霊の加護を
そして、2人は、風の加護に導かれながら、宿舎へと飛び立つ。
2人の宿舎は、リヒタイン侯国常備軍の近衛兵舎に併設されてある。2人のように、水や風など加護の大きい
☆
部屋に戻ったカンデには、夜にやらなければならないことがある。
まずは、コーヒーを入れると、椅子に座り気を落ち着ける。しばしの後、カンデは目を瞑る、身体のうちに在る、大精霊マリンの水の加護をひとつひとつ辿っていく。作物に恵みの雨を送る最幸の精霊としても世に知られるマリンの加護は、ソルト、アクア、アイス、そして、ボイド(泡)に分かつことができる。先程の噴水の小さな飛沫の場合は、アクアとボイドの加護を組み合わせている。明日から、アイスの加護を分かつ妹のレイナと共に北の大地に赴いて行うこととなっている、厳寒の滝の造形では、アイスの加に少しのソルトで最硬の
だが、この大精霊の加護は、この4つにとどまらないはずなのだ。さらなる加護を夜のカンデは探る。
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