第85章 連星⑧
木星が見えてきた。俺は彗星と、木星に眼をやった。巨大彗星といえども、超巨大惑星に比べれば小石みたいなものだ。
「木星に引っ張られはじめたぞ」
ゲバラが張り上げてきた。
これから彗星がどうなるのか、息を呑んで食い入るように、眼をやった。木星の強力な引力に捕まえられた彗星は加速しだした。ガスを長い帯のように噴き出し、木星の大気に向かっていた。過去にシューメーカー・レヴィ第9彗星という彗星が木星に衝突し、木星の凄まじい潮汐力で21個の破片にバラバラにされたことを思い起こした。まさか、生で彗星の衝突を見ることになるとは。
もっとも衝突させたのは俺たちだが。
想像を絶する凄い光景だ。いや宇宙の地獄絵というべきかもしれない。彗星はバラバラにならず、そのまま木星に衝突した。すると、超ド級の巨大なキノコ雲が湧いた。高さは数百キロもある。キノコ雲が消え始めると、木星の表面にダークスポットが見えていた。 ぽっかりと開いた巨大な黒い穴は、まるで地獄への入り口のようだ。
俺は魅入られたように、ダークスポットを凝視していた。
「これで火星は救われた」
安堵の声を零し、緊張から解放されたように腰を椅子に落とした。
やっと平和な日々が訪れる。思わず頬が緩んだ。生き返ってから今日まで、地獄に投げ込まれたような日々だったが、これでようやく平穏な生活をおくれる。帰り際にガニメデやエウロパにでも立ち寄って土産品店があれば、土産を買っていくか。瞳を近くに浮かぶエウロパに眼をやり、上機嫌で軽口を口の中に吐いた。
まあ恵美に、こんな土産品はいらないと、口を尖らせて突っ返されるかも?
そんな妄想に浸りながら、アリーナに軽口をかけようとしたときだった。
彼女はまだ険しい表情で画面を見ていた。そのアリーナの顔を眼にして、俺の有頂天の心は頭の片隅に追いやられた。
まさか? びっくり箱のように、彗星が木星から飛び出してくるとでもいうのか?
「ゲバラ、これ見て」
アリーナが青い顔をしたまま、眼で画面を指さした。
「どうした? まさか? こんなことが」
呼び掛けに応じて傍に近づいたゲバラが、信じられないという声をあげた。
「どうしたんだ? 二人とも」
状況がわからない俺は、二人に割って入った。
すると、俺の耳を疑う言葉が……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます