第82章 みんなで火星を守るのだ⑤
研究所棟に入る途中、俺は市街を眺めた。もう周りではシールドを張る工事が始まっていた。俺の時代と違って、計画が進むのが段違いに早い。シールドが完成すれば、隕石や竜巻の来襲に怯える必要はなくなる。
その光景に安心感する一方で、不安が頭を覆った。いずれ、そのシールドを簡単に吹き飛ばす悪魔が襲ってくるからだ。マルコフたちの後に続いて研究所棟に入った。中では、科学者たちがデータをかき集めていた。
「予想以上に状況は悪いな」
集めたデータを眼にしたゲバラが、曇った顔で声を落としてきた。
「ええ、この距離だと、彗星の進路を変えるには……」
横に並んだアリーナも顔を曇らせ、吐息のような声を上げてきた。
それから誰も声を出せずに、通夜のような重い空気が室内に流れた。科学知識の乏しい俺には、よく呑み込めていないが、事態はかなり深刻なようだった。
「そうだ木星だ。木星を利用しよう。幸い、この時間に、彗星は木星の近くを通る。少しでも近づければ、木星の引力に引き寄せられて、軌道が変わるはずだ」
ゲバラが沈黙を破り、計測時間を示してきた。
当初の計画では、海王星付近の距離で彗星にミサイルを撃ち込んで、軌道を変える計画だった。ごくわずかな軌道の変化でも、彗星が火星に近づく頃には大きくなる。だが衝突を避けるには、距離が近くなり過ぎてきた。
ゾルダーたちに邪魔をされ時間を潰したことが、計画の見直しを予想以上に困難にしていた。
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