第82章 みんなで火星を守るのだ③

「ゲバラ……」

 恵美は抱擁を解くと、愛しい人を待ちわびていたかのような顔を浮かべた。


「すみませんでした。ジュンを早く連れて来ることができなくて」

 ゲバラが申し訳ないという顔をして声をあげた。


「いいえ。ジュンを連れてきてくれて。ありがとう」

 恵美は感謝の言葉を吐くと、ゲバラを抱擁した。


「え?」ジュンの次に抱きつく相手は、父親のこの俺だ、と思っていたのに、 まったく予想もしなかった光景に、俺は少しショックの顔色を浮かべた。


 なぜだ? どうして? ああそういうことか。なぜ予想外の展開になったのかを、恵美の醸し出す妙な雰囲気で合点した。


 父親の俺が三番手に脱落したのは、どうやらアリーナの存在が、理由のようだ。彼女は俺の同伴者のように、ぴたりと傍に寄り添って立っていた。


 それが、娘には不満のようだった。いわゆる嫉妬心というやつのようだ。親バカだ、と言われそうだが、恵美は自慢の美人の娘だった。だったと、過去形の表現にすると、娘に怒鳴られそうだ。まあ、いまでも美人に変わりはないが、美を競う相手はAI最高傑作の絶世の美女だ。


 相手が悪すぎるぞ、恵美。あくまで俺の評価基準だが、美女の採点100点満点で評価すると、アリーナは130点を超えている。恵美は98点だ。2点減点にしたのは、俺の呼び方だ。いくつになっても、おとう呼ばわりするので、2点減点にした。

 そんなアホな理由で、2点減点にするのかい、と誰かに突っ込まれそうだが、そう俺が決めたのだ。だから恵美。お父様、いやお父さん、と呼んだら2点取り消しで、そしたら100点だぞ。

 ゲバラたちと話をしている恵美の姿を見ながら、俺は変な想像をしていた。

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