第81章 不死鳥のごとく⑨

「涙を流してるの?」

 アリーナが、少し張りを取り戻したような声で訊いてきた。


 どうやら、 自分の瞼に落ちた涙が気になったようだ。


「それは、おまえの涙だ」

 俺は嬉しさを眼に浮かべ、思わず、見え見えの嘘を吐いた。


「わたしはヒューマノイドよ。人間と違って、こんな涙は出ないわ」

 アリーナが即座に言い返してきた。


 確かにそうだった。だが、濡れた瞼とは別に、アリーナの眼は少し潤んでいた。

 ひょっとして、アリーナを生まれ変われさせるときに、ガーピスが涙も出るようにしたのかもしれないと思った。

 彼女を、より人間に近づけるために。


「どうだ? 具合は?」

 俺は大切な家族の身でも案じるように、優しく言葉をかけた。


「大丈夫。少し頭が重いけど、心配ないわ」

 病状から回復した人間のような顔で答えてきた。


 もう彼女は、人間となにも変わらいないように思えた。ゾンビ色、いや木炭色以外は。


「そうか。それは良かった」

 俺はもっといろいろと自分の溢れる思いを素直に喋りたかったが、彼女の顔を眼にしていると、ありきたりの言葉しかかけられなかった。


 いまは、彼女が生きているだけで、それで十分満足だった。


「あの怪物は?」

 アリーナが思い出しように訊いてきた。


「ああ消滅したよ」

 その言葉と一緒に、俺を守ってくれたことに、眼に感謝の思いを込めた。


 言葉にして礼を言おうと思ったが、口に出すと、内に秘めた思いを白状しそうなので、唾を飲み喉に押し込めた。いつか自分の思いを告げたいと思うが、いまはそんな状況ではない。もうすぐ、ゾルダー以上の超怪物が、火星に襲ってくる。

 その告白は、火星が真の平和な世界になってからだ。



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