第42章 火星へ④

 船に乗り込むと、俺は操縦席の隣に座った。船には20人乗れるが、乗っているのは、俺とアリーナの二人だけだ。空席だらけの船内は、まるで赤字路線の飛行機のようだ。


 予定では、ジュンとゲバラ、マリアとその弟、それと希望する人たちを連れていくつもりだった。だが二人だけで行くことにしたのは、彗星衝突の阻止を成功させるという保障はないからだ。失敗したら、この船は火星にいる人々の救助船となる。


 そのため18席は、わざと開けてある。救えるのは、たったの19人だけ。全ての人を救うことはできない。そのとき俺は、火星に残るつもりだ。俺の代わりに誰かを乗せる。1人でも助けたい。


「出発します」

 アリーナがまた柔らかい口調で吐いてきた。アマールなら、きっと例の冷たい男勝りの口調だっただろう。


 その声を合図に、船は離陸すると地底トンネルを抜けて海中をしばらく進むと、一気に大気圏外を目指した。周りには、もしもの時に備えて、護衛機が6機ついた。


 幸い心配していた、ガイガーの戦闘機は現れなかった。北極海方面でガイガーと大王の激しい戦闘があったとの情報があったが、それが関係しているのだろうか? 


 どうやら何事もなく無事に地球を脱出して、火星へ行けそうだ。船は大気圏を抜けて、宇宙に飛び出した。地球が次第に小さくなっていく。宇宙から見た地球は、宝石のように美しかった。だが、いまや地上は地獄図絵のようになっている。火星も同じ目に遭わせるわけにはいかない。


 重くなった心を封じ、眼を前方に向けた。360度、地球ではお目にかかれないような無数の星が見えると思ったが、地球の明るさで周りは暗黒の世界だった。



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