第28章 3年前④

 竜司たちが懸命に子供たちの救出を進める一方で、ガイガーと大王の戦争は、ますます激しさを増していた。このままでは22世紀を待たずに、ガイガーと大王は本当に人類を絶滅危惧種にしそうだ。80億を超えていた人類が、二桁を割るのも時間の問題だった。


 竜司は、火星行き最後の宇宙船の搭乗口前に立っていた。その目の前には、医療機器を装備したカプセルベッドに、眼を閉じたまま横たわる母と、側に付き添う妹がいた。


「恵美、母さんを頼む」

 竜司は、母に眼をやった後、妹と眼を合わせ、念を押すように語った。


「わかっているわ。兄さん、心配しないで。母さんは、わたしが守るから」

 恵美が心配ないという顔をつくって応じてきた。


 水爆の放射線をまともに浴びた母の重い症状は、ガーピスの能力をもってしても、まだ完全には治せていなかった。


 戦争の激化で、地上の収容施設は破壊されてしまい、治療に専念できる施設が地上にはなかった。地下都市に治療施設をつくることも考えたが、避難させるのは子供たちだけと自分で決めておいて、母以外にも重症者は多いのに、特例扱いで家族を地下に連れていくわけにはいかない。苦渋の判断だった。


 そこで思いついたのは、母親を火星に行かせて、治療方法を火星にデータ送信し、完治させようと考えていた。

 竜司は、移動ベッドに横たわる母の腕を掴んだ。


「母さん、向こうで病気を治して元気になって」

 眼を少し開けた母に、優しく声をかけて励ました。


 母は無理に笑みを浮かべ、眼で頷いた。だが、その眼は、ひどく悲しそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る