第26章 過去に何が起きた?②

 時は、13年前に遡る。世界の株価は異常な高騰を続け、政治家たち、資本家たちはAI社会のおかげで、贅をほしいままにしていた。支配者たちは酒池肉林に浸り、世界中を遊びまわっても代わりにAIが巨万の富を稼いでくれた。一方、大量失業に苦しむ国民への福利厚生は、嘘で塗り固められた財政赤字を理由に、どんどん切り捨てられ、貧困と飢えに耐えかねて自殺者が急増していた。


 そんな強欲な支配者たちの腐敗政治を変えられるはずの民主主義の根幹である、選挙も名ばかりとなっていた。それを変えようと立ち上がった、国民の生活を守ろうとして誕生した政党はことごとく潰されて、大企業、資本家たちの意のままに動く、2大政党政治による腐った社会となった。だから政権が変わっても、国民の生活が悪くはなっても決して良くなることはなかった。


 国民のための民主主義を取り戻そうと運動を続けていた人々は、冤罪を着せられて投獄されるか次々と不審死で消えていった。かつて中国などを独裁国家だと批判していた欧米諸国、そして日本も実質、世界の独裁国家となんら変らない社会になっていた。反政府の国民が圧倒的に多いのに、民主主義社会とは名ばかりで国民の声は完全に国政に届かなくなったのだ。


 もうこの頃には、民主主義を守ろうと政府批判のマスコミは完全に消滅していた。俺が冬眠に入る前にも、不正を働く政権をどこまでも擁護する御用マスコミが日本に存在していたが、全てのマスコミは完全に政府の宣伝機関となっていた。


 俺がのんきに寝ている間に、真の民主主義社会と呼べる国は、地球から完全に消滅していた。


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