第19章 逃げ切れるのか?②

「こっちよ」

 アマールが囁くように指図すると、左の通路を小走りで走った。


 だが普通に、のんびりとは走らせてはくれなかった。レーザー弾が背中を追うように、次々と飛んできた。中には俺たちを追い越して前方の壁を抉っていた。


「もっと走って!」

 アマールが声を張り上げると、さっと飛び上がりオリンピックの機械体操選手の華麗な演技のように体を捻った。そしてすぐさまレーザー弾を連射していた。


 初めは、機械仕掛けの冷徹で嫌なマネキン女だな、と思っていたが、まったく凄腕の女だぜ。アリーナは飛んでくるレーザー弾を右へ左へとかわしながら、銃を連射していた。撃った方向は天井だ。襲ってくる十数体の飛行物体の行く手を阻むのが狙いだった。天井を次々と破壊し、破片を通路中に飛ばした。飛び散る破片は、飛行物体の進行を阻んだ。だが大半の飛行物体は、ほぼ無傷で追ってきた。


「あなたに渡した銃は飾りじゃないのよ! ずっと腹の前にしまっていると、いずれ暴発して大事な部分を失うわよ! 早く撃ちなさい!」

 アマールが応戦しながら、声を飛ばしてきた。


 その皮肉めいた言葉に、俺はドキッとした。生活に支障なくすごすための排尿とか、他にも使い道のある、大切な伸縮式の長刀? いや短刀を、ここで失うわけにはいかない。暴発して大事な宝刀? を失わないよう、ズボンから銃を取り出した。

 そうか! 飛行ロボを撃ち落とせる射撃力はないが、天井だったら俺の腕でも撃てる。天井めがけて連射した。さすがにAIが造ったすごい銃だぜ。いわゆる銃を発砲したときの衝撃をほとんど感じなかった。さしずめゲームセンターの模擬の銃のようだ。ま、俺は模擬銃でも遊んだ経験はないが。小さい子供でも遊べるのでたぶんそうだろう。


 二人の連射で、天井はハチの巣のように穴だらけになり、飛び散る破片と黒煙が、通路一面を覆った。弾は飛んでこなくなった。飛んでこないということは、飛行ロボは全部、破片に破壊されたのか? いや、そうではなかった。またレーザー弾が雨あられと次々に飛んできた。


「うっ」

 左肩に激痛が走った。


 余りの痛さに、腰を落としそうになった。


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