第18章 汚水管路④

 恐れていたことが、やっぱり起きた。まだ5分も経っていないというのに、遠くの方向から微かだが流水の音が聞こえてきた。


「洗浄できなかったことを知って、予定時間よりも早く放水してきた。さあ、もっと急いで!」

 アマールが声を飛ばしてきた。


 嘘だろ! 俺は声に出さず、オウム返しのように同じ言葉を胸に飛ばした。


 今度は洗浄液が、鉄砲水のように襲い掛かってくる! ということは、さっきのようにぶら下がっても、無駄なあがきだということだ。

 今度こそ助からない。絶体絶命だ! 俺は走りながら、脳裏に絶望の声をあげた。


「どうする?」

 俺は堪らず、アマールに声を飛ばした。


 だが、アマールは返答しなかった。ただ前を向いて、突っ走っているだけだ。


「止まって!」

 今度はいきなり声を飛ばし、急ブレーキでも踏んだように足を止めた。時間を置いて、俺に返答したのか? いやそうではなかった。


 何が何やらわからないまま、俺は言われた通りに従った。だが汚水が迫っているというのに、なぜ止まったのか? と訊こうとしたが、アマールの手のほうが早かった。前方の管路の壁にレーザー弾を連射していた。

 すると、前面に網目のような形をした黄色い光線が一瞬の間見えた。そしてバチバチという火花が散って灰色の煙が少し上がった。


「そのまま、ここを通ったら、あなたの体は、網目状にバラバラに寸断されていたわよ。もう大丈夫。さあ、通って」

 俺をたっぷりと脅かす? と、煙が残る先に足を運び、早くこっちに来いという顔で、手招きしてきた。


 俺はまたびっくりした顔を首に乗せ、三途の川を、いや黒煙が上がり続ける壁面の床を渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る