第5章 初対面②

 俺は思考を目の前の現実に戻した。


「私は、宮島恵吾です。あそこはいったい、何なのですか?」

 まだ鼻腔にしつこく纏わりつく埃を右手で払いのけながら、少しむせ気味になった声で訊ねた。


「あそこは、AI野郎たちが造ったエリアです。宮島さんがいたビルは実験棟です。宮島さん、首に埋められたGPS機を取り除きますので、少し痛いですが、我慢してください」

 大谷は声をすかさず返すと、ポケットから奇妙な注射針のような器具を取り出し、俺の首筋に押し込んだ。


 極太の注射針を刺されたような激痛が、頭から手足の指先まで全身に走った。強い痛みに思わず声を出しそうになったが、若返った俺の見た目とは違って、実年齢は孫のような若い男の前で、みっともないのでグッと我慢した。


「もう大丈夫」


 なにやらスプレー式の止血剤のようなものを注射痕に吹き付けて、取り出した米粒状の銀色のGPS機を足で踏み潰しながら、男が声を繋いできた。


「AIが造ったエリア?」

 まだ痛みが残る首筋を手で揉み解しながら、信じられないという顔で訊き返した。


「はいそうです。人間が築いた文明は滅ぼされて、地球はAIに乗っ取られました。生き残った人間は、AIの監視下で家畜のように生きています」

 大谷は反吐でも吐き捨てるかのように答えると、埃で汚れた顔を曇らせていた。


 俺はすぐには声を返せず、大谷の言葉を反復していた。人間はAIの家畜。あの氷顔のマネキン女のことが頭に浮かんできた。

 

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