第5章 初対面①

 俺は、頭や体に纏わりついた岩屑の埃を払い落しながら、鳥男の顔に眼をやった。まだ20代前半だと思われるが、端正な顔立ちの割には、実年齢よりもどこか老けて見えた。


 青年がそういう風に見えるのは、さっきのような死の危険が日常茶飯事起きているせいだろうと思った。俺が眼にしたシリアや、ガザ地区で殺害の恐怖に怯えて暮らす人たち、死と隣り合わせの地獄のような世界で生きている人々と重なって見えた。


「僕の名前は大谷ジュン、あなたの名前は?」


 俺は、確かめるかのように訊いてきた大谷の顔に思わず見入っていた。別に、一目惚れしたのではない。俺にはそんな趣味はない。その言葉を、変に誤解しないでほしい。別にジェンダー差別をしているわけではない。


 見入っていたのは、自分の大切な娘の眼と、どこか重なって見えたからだ。が名前からして、赤の他人だろう。


 世間には似ている顔の人間が2、3人はいるらしいが、青年の眼もきっとそういうことなのだろう、と思った。


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