第1章 マネキン女①
「宮島さん、起きて下さい」
俺の長い眠りを覚ます、どこか金管楽器の音色のような若い女の声が、いきなり脳内に飛び込んできた。
俺はその声にビクッと反応して、長い間使っていなかった脳神経を動かし、固く閉じていた二重瞼をゆっくりと開けた。両目にやけに明るい照明を浴びせられたようで、すごく眩しい。
「どうですか、気分は?」
声をかけてきたのは、俺とは縁のないデパートの婦人服売り場にでも並んでいそうな、白人のマネキンのような容姿をした美女だった。いや、本当にマネキンのように見える。動かずにじっと棒のように立っていれば、まったく分からないだろう。俺の老眼の眼球でなくても、誰もがそういう風に見えるだろう。女は続けて優しげな同じ口調で訊いてきたが、どこか冷たさも感じた。
やはりマネキンが喋っているのか? それとも、リアルドール?
「ここは?」
俺は長らく使っていなかった口をぎこちなく動かし、逆に訊き返した。
少しむせた声に続いて瞳を動かし、周りに眼をやった。俺が眠りに入る前の室内の景色は、そこにはなかった。眼にする何もかもが、がらりと変わっていた。見慣れたものは、何一つ無かった。
これは、現実なのか? それとも多少は人には言えない恥ずべき行為をしたこともあるので、罰として悪夢でも見ているのか?
それが頭に過るような、冷たさを感じる室内だった。そう感じたのは、まだ元気に活動していた頃、何度も修羅場を生き抜いてきた経験からだ。
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