第10話 出会いの・・・容 5
「Dear さゆうくん
拝啓の方が良いかな?(笑)
突然のお手紙、何卒ご容赦くださいね。
でも、このままお別れしてしまうことに耐えられない私の気持ちも、
少しだけお察し頂ければ、幸いです。
堅苦しい挨拶はこれくらいにして、さて、
何から話せはいいのか悩むところなんだけど、
私の記憶の話から書くね。
多分、さゆうくんは覚えてないと思うけど・・・
本当は、ちゃんと会って話したいんだけど、多分、私が無理。
多分、気持ばっかり先走っちゃって、本当に伝えたいこととか、
伝えなきゃいけないこと、伝えられそうにないし・・・
さゆうくんに初めて会った時のことを、私は鮮明に覚えているけど、
多分、さゆうくんは忘れてるよね?(笑)
忘れてなかったとしても、その時の女の子が私だったって、
気付いてないよね。(ひょっとして、この手紙を読んでくれてる時には
もう知ってるかもしれませんね。その話は、後で書きますね)
初めて会った日に、さゆうくんが私に言ってくれた言葉と、
最後に言ってくれた言葉が
私はずっと忘れられなかったし、今もそうです。
初めて会ったあの日、さゆうくんは入院を嫌がって泣いていた私を、
病院の庭の池に連れて行ってくれて、言ったの。
『ぼくが池のあっちまでとべたら、もう泣いちゃダメだよ。
やくそくだよ。ぼくはぜったいとべるから』
そう言って、私が『あぶないよ』というのも聞かず、
貴方は本当にぴょんっと跳んじゃって、
でも、着地でちょっと失敗して、膝小僧を擦り剥いて・・・
覚えてる?覚えてないかな?
さゆうくん、膝小僧が痛いのに、我慢してて、
見ている私も泣きそうなんだけど、約束したから泣けなくて・・・
その後は、二人で手を繋いでジッと池の鯉を見詰めてた・・・
なんか思い出すと、おバカな二人だった様な、可愛らしかったような。
さゆうくんが『跳べたら泣くな』って言ったのも、
それに納得した私も、謎だよね(笑)
それでね、私は貴方のほっぺにkissしたの・・・五歳児・・・おマセさん・・・
私の初kiss・・・恥ずかしい・・・(汗)
あの病院も建て替えられちゃったから、あの池ももう無いけど、
どれくらいの幅があったのかな?多分、今見たら凄く狭いのかも(笑)
でも、お蔭で私、その後、退院するまで一回も泣かなかったんだよ。
それから、最後にさゆうくんが私の病室に来てくれた日。
コインをくれた日。
『ぼくが悪い子で、ぼくがおばあちゃんの病気がなおりますようにって、
お願いしなかったから、おばあちゃん死んじゃったんだ。
かわりに、あーちゃんが病気がなおるようにお願いしていいよ。
ぼくはもう、悪い子はいやなんだ。だから、これ、あげる』
そんなことを言って、貴方は私にこのコインを渡してくれたの。
今冷静に考えると、五歳児の会話としては凄くない?
それをそれと貰っちゃう私も私で凄いけど・・・
それからずっと、退院してからもずっと、
さゆうくん、貴方のことが忘れられなかったの
五歳児、なのにね。自分でも笑っちゃう。
その後すぐにね、父の仕事の都合で埼玉に引っ越しちゃったんだけど、
実は、その後、両親が離婚しちゃって、
中学校の時に私はこっちに母親と一緒に戻って来たの。
でね、元の父親の姓が『鈴木』
だから、初めてさゆうくんと会った時は私『鈴木明美』だったんだ。
『水上』は母方の姓なの。
そういう訳だから、さゆうくんが気付かなくて当然なんだよね・・・
でも、何処かで私、気付いて欲しいなって・・・
わがままだよね・・・
正直に言うと、私、自分から言い出して、もし貴方から
「覚えてない」って言われるのが怖かったんだと思う。
傷付きたくなかったんだと思う。ずるいよね、私。
それでね、思ったの。
そうだ、コインにお願いしようかって。
実はね、私、病気だった時、「病気が治りますように」って
お願いしなかったんだよ。
さゆうくんからコインを貰ったあの日が抗がん剤投与の最終日で、
一番辛かった時だったんだ。
その後は徐々に回復していったし、
お医者さんからも『このままいけば、九分九厘大丈夫』って言われてたの。
だから、一度きりのお願いを
「さゆうくんが私に気付いてくれますように!」って
お願いしようと思ったんだけど、結局出来ませんでした。
色々考えちゃって・・・
気付いて貰ってどうする?とか、
さゆうくんのおばあちゃんのこと思い出したり、とか、
自分では何もしないで、神頼みって情けない、とか、
考えている内に、ほぼ三年過ぎちゃった・・・
これ、今読んで貰っているとき、
私はちゃんとさゆうくんに話せた後かな?
フラれた後かな?
でも、これ、書いたら、必ず貴方に渡すと決めたんだ。
書き終わったら、書き直しが効かない様に、完全に封をするつもり。
これを、さゆうくんが笑って読んでくれてたら良いなぁ。
そんなさゆうくんを想像して笑っていられる、私だったら良いなぁ。
私のことはどうでもいっか・・・(笑)
長々と長文、駄文、申し訳ありませんでした。
最後に
ずっと、貴方が好きでした。
これからも、そうでありたいけれど・・・
それでは。
PS:早く進路が決まって、楽しい春休みになると良いなぁ。お互いね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます