第44話、サラマンダー戦1
サラマンダーの元へ駆ける。
剣に魔力は───まだ流さない。
サラマンダーの背後に火の玉が浮かぶ。
───マズい。
そう思った時には遅かった。
目の前を覆う大量の火炎弾。剣に魔力を流せば魔法切ることもできなくないが、魔力をえらく消費する上に前の世界の小説にいたようなみたいに大量の魔法を切り裂くことはできない。
なり振り構わず横っ跳びして躱──せない。
ダメージはあまり無い──だが、当然服は焦げた、むしろ火がつかなかっただけマシというものだ。
だが、何度も喰らえば間違いなく火がつく。
ここは回避主体で片付けたいところだが、───難しそうだ。
数十を超える炎弾を回避するのは難しそうだ。
このために習得した結界も、まだ展開しながら動く事はできない。つまりは一度やってしまったらそのままジリ貧だ。剣で斬るのは多分手数不足で、しかも成功率は低い。
──まてよ?剣に魔力は流せた。そしてそれは魔法や精霊すら斬ることができた。
──ならば、服に魔力を流したら?
魔法を防げる?
服に魔力を流す。ただ、剣と同じ感覚で魔力を流せばあっという間に魔力が尽きる。
だから最初は薄く魔力を服の繊維に合わせて流すイメージで、袖を通り、肩、胸、腰、そして足を通り爪先まで薄くゆっくりと魔力を流す。
ただ、炎弾を回避しながらやってるため殆ど集中出来ず瞬く間に魔力が漏れ出していく。
そしてついに──
「クソがっ」
精霊も生き物だ、相手の動きを見て学ぶしそれに対して対策も当然する。
無我夢中で回避したその場所は一際大きな炎弾が待ち構えていた。
寧ろ回避しないで炎弾を喰らっていた方がダメージは少ない。
一瞬で覚悟を決め、魔力を纏った服を信じ、つい先ほど回避するまでいた場所に突っ込む。
炎弾が一斉に炸裂し轟音が耳をつんざく。
顔が熱い。ダメージこそ少ないがそこにある熱さは中々に耐え難いものだ。
そして視界が晴れ、服は──損壊なし。
だが、魔力の残りも少ない。
突然だが、昔俺は前の世界でとあるハンティングアクションゲームにハマっていた。前半に慎重にプレーし過ぎて後半制限時間が迫ってきて、モンスターに突っ込み回避し損ね吹っ飛ばされまた突っ込むということを繰り返し、友人からはよく呆れられた。
──つまり、時間が無いなら取り敢えず突っ込もう。ということだ。
「うおらぁぁぁー」
side王女
あの冒険者…調べたところによるとユウジと名乗っている彼を私は全く信用できなかった。
久しぶりに王城でゆっくりとしていたのにそれをぶち壊した精霊の暴走の報告。しかもそれを成したのは新人の冒険者。新人が精霊と戦って無事なはずが無い。
ただ報告があったらそれが嘘であろうとまず真偽を確認しなければならないのも事実。
だから、継承権がなく冒険者をしている為界隈の情報を得やすい私が確認する事になった。
実際に会って暫く観察し、私は理解した。あの報告はただ目立ちたかったが故のものだと。
何せ装備は通常装備、魔法武器じゃ無いから実体のない精霊には攻撃が通らない。
魔力を纏わせた可能性もあるが其れは長年の修行の末に掴めるものであり、其れができるなら高ランクの冒険者か或いは、騎士団に入っている。目の前年が同じくらいの少年は低ランクの冒険者だ。使えるはずが無い。
ただ、魔力の量だけは多かった。生まれつき魔力の量が桁違いに多く、小さい頃から神童と呼ばれ、魔法の研鑽に努めて来た私よりは少ないが常人を遥かに超える魔力の量。
もしかしたらということもあるので暫く観察した。
ある時は受付嬢の胸に視線を取られ、ある時はパーティーメンバーに人攫いと一緒に殴り倒される。
どこからどう見ても精霊と渡り合えるはずが無い。だからあの報告は虚偽だった。
そう結論付けたその矢先。王都に魔物が現れた。そしてあの男も。さらに精霊も…
そして、彼は一人精霊に立ち向かっていった。すぐに援護すべきだが、魔物が湧出する亀裂──アビスゲートを塞が無いといけない。…でもこのままだと彼は…
思考がループする。最優先事項はアビスゲートを塞ぐ事。
いや、そもそもそのゲートの塞ぎ方は彼が言ったもの本当に正しいのか…本来ゲートは熟練の魔術師らが協力して繊細な操作で塞ぐもの大量の魔力をぶつけ塞ぐなんて聞いたこともない。
一方精霊は私は魔法使いのため精霊にもダメージが通る。少人数だから厳しい戦いになる筈だけど勝てる。
でも、その間に魔物は王都中に拡散するかもしれない。仮にそうなれば護るべき民が…
「…さま、…王女様!」
「…っ」
気がつくと美しい女性…彼の呼び名で言うと…
「ティアさん?」
「彼は…ユウジは大丈夫です。こっちを終わらせて加勢しましょう?心配なんですよね?」
「ばっ…誰が…そう、これは借りを作ったままなのはイヤだからよ!…ほら、さっさと終わらせるわよ‼︎」
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